ドラマ撮影開始1時間前。
 今日は日本・韓国・中国のアジア3兄弟とイギリスの閑話話を撮る予定だ。
 いつもの癖で早い時間にやって来ていた菊のところに、慌てた様子のアーサーが駆け込んできた。

「おはようございます。本田さん!あの、うちの兄を見ませんでしたか!?」
「はい、おはようございます。お兄さんですか・・・?いえ、見てませんけど・・・」

 慌てながらも挨拶が先に来る辺りに業界人根性がうかがえるなあと思いながらも返答する。
 アーサーは若干青ざめた顔でその場に立ち尽くしていたが、そこに新たな足音が近づいてきた。

「アーサー!あいつを止めるんだぜ!」
「イムさん?」

 いつもは時間ぎりぎりにくるイム・ヨンスが居ることにも驚いたが、その背に担がれてる王耀にも驚いた。しかも気を失っているらしく、ぴくりとも動かない。

「どうしたんですか?」
「どうしたもなにも・・・カークランドの次男がやってきて、凄い剣幕で脚本家に噛み付いて、止めようとした王先輩が巻き添えになったんだぜ」

 この「カークランドの次男が」の辺りですでにアーサーの姿はなく、王を長椅子に寝かせるヨンスのバックに「兄さん!何やって・・・待っ、そのコンクリートは何に使う気だよ!?は?海?・・・ちょ、生き埋めはまずいって!」というアーサーの叫びが聞こえてきた。

「・・・ばれっちゃったんですか?」
「ばれちゃったんだぜ・・・」

 はあと同時に溜め息をつく。
 今日の台本には【ヘタリア ブリタニアエンジェル】の文字。

「過保護なお兄さんたちですね・・・」
「敵対する兄役ってのも気に入らなかったらしいんだぜ」
「そこにこれですから・・・」

 ドラマとは違って、実際のカークランド4人兄弟は仲がいい。特に末弟のアーサーに関しては溺愛の部類に入る。その弟が布1枚で天使の格好をするとなれば殴りこまないわけがない。

 結局、ブリタニアエンジェル編はアニメで放送されることになったという。