長年男装をしていたイギリスが体の急激な成長を期に女性であることを明かして、世界中を混乱の渦に巻き込んでから数ヶ月。
 米英仏の性質の悪い冗談だと疑われたり、「手を出したら消すよ」とロシア並の零度笑顔でシスコンぶりを発揮したアメリカが暴走したり、実は気付いていたけど黙っていたという日本に驚いたり・・・etcと、しばらく続いていた混乱が過ぎ、ようやく周りが落ち着いてきたと思った矢先のこと。

 仕事の書類を持ってきたというイギリスと、イギリスに着いてきたアメリカがフランスの家にやってきて、ちょうどいいから昼飯食って行けという誘いに珍しくイギリスが素直に応じてアメリカが便乗した。
 昼食を食べ終わって紅茶とコーヒーで一息ついていた中、イギリスが思い出したように口を開いた。

「アメリカ、フランス。なんか俺、妻帯者になったから」
「・・・はいっ?」

 素っ頓狂な声を出したのはフランス。斜め向かいでコーヒーを飲んでいたアメリカは、口の中のものを噴出してむせ返っていて喋るどころではない。

 え、なんでそれを俺に言うの。いや他に言うような相手いないんだろうけど。
 妻帯者ってお前、女でしょうが。最近まで男のふりしてたけど。言うとしたら夫帯者のほうが正し・・・いやいやいや、そこが問題なんじゃなくて。
 イギリスに嫁?お嫁さんですか?

「どんな強靭な胃袋と鈍い味覚の持ち主だよ・・・」
「いや、不味いって散々言われるけど、文句言いながらもちゃんと食べき・・・って、何けなしてんだてめぇ」
「え?食べきるの?お前の料理を完食できる奴がアメリカ以外にいんの?」

 しかも今、惚気たよね。なんか頬赤いんだけど。え?マジ?本気と書いてマジですか?

 いきなり突きつけられた現実についていけない頭を抱える。
 こいつ、こんな性格だったっけ?もっと狡猾で冷静で変なところで抜けててたまに可愛い・・・あ、なんか俺も色々と駄目だ。

「・・・念のため聞くけど、アメリカじゃないよな?」
「違う」

 そりゃそうだ。だって知らされた相手の中にいるわけだし。

「どんな奴?」
「えーと、国」
「・・・他には?」
「男」

 ・・・こいつ、成長とともに頭の一部も無くなったんじゃなかろうか。
 それとも天然なのかこれは。
 いや、笑ってるから、からかってるだけなのか?

「俺が聞きたいのはそういうことじゃなくてな・・・」

 とにかく名前だけでも聞こうと思ったが、その前にアメリカが立ち上がった。
 隣に座るイギリスの肩を掴んで叫ぶ。

「ひょっとしてあいつかい!?」

 知ってんのかよ。
 いやそれよりも、お前らだけで話進めんな。

 置いていかれた気がして、しかしアメリカの剣幕に横槍を入れることもできずただ見守る。

「んー・・・考えてる奴が違ってなければそうだと思うけど」
「俺は反対だぞ!あんな柄が悪いの!」
「人の旦那をあんなのとか言うなよ」
「あいつと夫婦になるくらいなら俺と結婚してくれたっていいじゃないか!」
「どういう理論だそれは」

 名前を出さないのってわざとなのかなー?
 ひょっとしてお兄さん、遊ばれてる?

 念のため、エイプリルフールではないことを確認。
 傍観者ポジションに固定されてしまったフランスは、昼ドラのような光景を眺めるしかなかった。

「よし、決めたぞイギリス!」
「何をだよ」

 平行線をたどる会話に一方的に区切りをつけたアメリカはライフジャケットから銃を取り出した。
 すぐ近くにいるイギリスは平然としているが、フランスはこれってお決まりのセリフが飛び出る場面じゃないのかと慌てた。

 あれだ、「あなたを殺して私も死ぬ」だ。

「おい、待」

「あいつを殺して俺は生きる!」
「中途半端にパクるなよ!!」

 アメリカらしいといえばアメリカらしいという言葉にフランスがテーブルに突っ込む。
 一方、ツッコミをいれながらも慌てたのはイギリスだ。止めようと立ち上がるが、それよりもアメリカのほうが早かった。

「じゃあ、行って来るよ。イギリス!」
「ちょ・・待てぇー!!」

 音速のような速さで飛び出していくアメリカ。顔には『Kill!』と書いてあったような気がしたと後にフランスは語った。

「あのばかぁ!」

 フランスの存在などまるっきり無視して追っていくイギリスを呆然と見送る。

 何なんだあの姉弟は。というかどこまで本気だったんだ。
 いやそれよりも問題は・・・

「結局、相手は誰だよ」
 
 フランスの疑問に答える存在は、残念ながらこの場にはいなかった。







 とりあえず暴露話。

 アメリカは恋愛感情を持ってるわけではなく、姉を別の男に渡すのが嫌なだけです。
 米英仏は兄弟。文句を言ったりするけど、一緒に居て気兼ねなくいられる関係だと思います。
 またはお父さんとシングルマザーの娘とその子供・・・