「今晩はー」

 夕刻を指す時間帯でもスタジオではあまり使われない挨拶に、その場にいたスタッフ・出演者が振り向く。
 そこに居たのは今日は出演予定のないはずのキャスト。

「あれ。カークランドくん?」

 不思議そうな表情でその名を呼んだ監督に、アーサーは手に持っていた長方体の包みを持ち上げた。

「差し入れで「飯だー!!」

 アーサーが言い終わる前にスタジオ内から歓声が挙がる。

 誰かがが三日ぶりのまともなご飯ー!と叫んでいるのが聞こえた。
 おそらく、毎回無茶な仕事を押し付けられる大道具・小道具の人たちだ。これが撮影終了間近になるにつれフィルムチェッカーの人たちがゾンビのようになっていく。

「また強行軍なんですか・・・」
「そうなんだよ・・・」

 1話分の撮影ごとに世界中を飛び回るようなドラマを週ごとに放送するなんて無茶だと分かりそうなものなのに、撮影スケジュールを根本から見直そうと誰も言い出さないのが不思議だ。

「おいこら不良監督!麻婆茄子からフォークを除けてから話せ!」
「肉・・・」
「野菜も食え、カルプシ」
「やっほー。アーサーが弁当持って来てるんだって?」
「アニメ収録メンバーに教えたの誰だ?!取り分が減る!」
「うわーん!食の亡者がいるー!!」
「監督の背後に鬼が見えます・・・」


 もっと頻繁に差し入れしに来よう。
 マトリックスな争奪戦を繰り広げ始めた知人たちを見ながら、そう心に決めた。