その日の収録終了後のスタジオはこれまでにない緊迫感に包まれていた。

「これが、あの・・・」
「そうだ。これがあの」

 囲まれたテーブルの中央。

 赤と黒・白チェックという洒落た柄の箱。

 中から取り出されたのは半端なく黒くて少し弾力のある平べったい固形物。

 誰が最初に知ったのか、冠する評価は『世界一まずい飴』。でもフィンランドの人たちは普通に食べているらしい。

「これが・・・”サルミアッキ”・・・」

 成分表を見れば何故か入っている塩化アンモニウム(効用:臭い消し?)。てかサルミアッキという単語自体がフィンランド語で塩化アンモニウムらしい。

 え、そっくりさんを作る?何言ってんの、売ってるんだから買ってくればいいじゃん。(BY監督)
 そんなノリで購入された正真正銘の本物。

 そして撮影が終わって皆が直面した大事なこと。
 [食べ物は捨ててはいけません。ちゃんと食べて始末しましょう]

「・・・で、誰が食べんの?」
『・・・・・・・・・・・・』

 沈黙する役者&スタッフ一同。監督は『お疲れ!またねー。』という置手紙とともに逃亡したため数に入ってはいない。おそらく次回の撮影時にでもスタッフがサルミアッキとともに(好奇心によって)購入したシュールストレーミングの開封役を押し付けられることだろう。

 それはともかく、好奇心で酷い目にあったことなど片手では足りないヘタリアメンバーたちの視線は示し合わせずともある人物に向けられる。

「なあ、フェリシアーノ・・・食べてみないか?」
「ふぇ?」

 きょとんとした表情を浮かべたフェリシアーノの死角で、ギルベルトとアントーニョに捕獲されたロヴィーノが暴れていた。


 芸能界の誇る味音痴シンガーは周囲の期待通りに完食してくれました。