「今日は帰りたくない」
 ありきたりだけど結構な殺し文句だと思う。可愛い彼女に潤んだ目で見上げられながら言われて、拒むなど情けないだけだ。
 とはいってもそこに下心ありな意味が含まれるのは相手が彼女(もしくは彼氏)だった場合で、今自分の目の前に居るのは、恋愛感情など全く挟まない後輩だ。

「アルフレッドさん・・・」

 うん。かわいいのは一緒だけど。
 涙目で上目遣いとか、前に観たCMのチワワを思い出す。ぎゅっと服の裾を掴むしぐさにはかなり庇護欲そそられた。
 誰にでもこんなしぐさをしてたらいつか悪い大人に食べられちゃうぞ。

「あ、あのねアーサー」
「ダメですか?」

 眉をよせて小首を傾げて、見るからに困ってますという表情だ。
 いろんな意味で可愛い後輩の頼みは聞いてあげるべきなのだろう。・・・それが少々遠慮したいことであっても。

「わかったよ・・・」
「ありがとうございます!」

 ぱあっと明るくなった表情に、ためらいも周囲への申し訳なさも取り払われてしまうあたり、自分は結構毒されているのだろう。

「一度行ってみたかったんですよ、夜のゲーセン!」
「お兄さんたちには内緒にね。・・・俺が危ないから」