芸能界――もといメディア業界というものは噂ですら貴重な情報源として積極的に仕入れようとする。 それらの情報の中でも荒唐無稽で不可解な噂を総括して”芸能界七不思議”と称しているのだが、そんな七不思議に最近追加された怪談がある。それは”H撮影所の控え室に幽霊が出る”というものだ。 H撮影所は鬱蒼とした森林を持つ野外撮影所であり、その控え室として使われている建物は昔何かの施設だったと言われている何やら曰くがあっても不思議ではない所だ。 高く育った木々のせいで建物の中は昼間でも暗く、外の音もほとんど聞こえない。 実に怪談にうってつけな場所だ。 そんな場所に好んで居座る存在なんて幽霊・人外の類しかいない――というのは普通の人の常識であって、一部の例外には通用しないことだとロヴィーノは身をもって知っていた。 まさか幽霊の正体が作曲場所を求めた結果、H撮影所の控え室の暗さと狭さを気に入ってしまった兄だなんてばれたくはない。 「というわけで、ここで曲作るのはやめろ」 「んー・・・もうちょっと・・・」 「少し移動するだけだから!ほら立って!」 「揺らさないで〜。音忘れる!」 「じゃあせめて寒いからってシーツを捲きつけて書くのやめろ!真相ばれたら怒られる!」 |