小春日和の多くなってきた某月某日。撮影終了後の撮影所にて局地的な暗雲が発生していた。

「アルフレッドさん・・・」
「アルフレッドくん・・・」

「・・・あの・・・2人とも・・・怖いん、だ、けど・・・」

 目の前には性格・外見ともに可愛い後輩のアーサーと芸能世界に多大なる影響力を持つ大御所の菊。
 ヘタリアメンバーの大部分が逆らえないだろうタッグに迫られているアルフレッドを、助けようと思う存在はこの場にはいなかった。

 なんだか2人とも殺気立っていて恐ろしい。ホラー映画出演のオファーがきそうだ。

 先ほどまで監督と話していたはずなのにいつの間にかこんなことになっていた。

「アルフレッドさん」
「な、何?」
「これ以上NGを出さないで下さい」
「え?」
「1,2回ならともかく撮影延期になるほどの失敗は遠慮してくださいね」
「は?」

 確かにアルフレッドは自他共に認めるNG魔だ。さらにはセットクラッシャーなどという二つ名まである。
 だがここまで鬼気迫った様子で迫られたことはない。

「・・・いん、です」
「アーサー?」
「出席日数がやばいんです・・・」

 アーサーは涙目だった。

 休みすぎと言うわけではないんですけどね。でも高校生って出席日数誤魔化せないじゃないですか。履修問題とかこの前騒がれたせいで色々厳しいんです。あと一週間足りないと留年・・・いえ、補習に行けばいいんですけどそれにも行けなかったりするもんで・・・。今の世の中大学までは行きたいんです。普通に就職したいんです。できれば報道関係の仕事について兄たちのスキャンダル隠蔽し・・・いやいやいや、まだはっきりと決めてるわけじゃないんですけど、でも俳優業は兄たちの反対があるんで本業にするのはちょっと・・・。

「私は副業の〆切が・・・」

 原稿を仕上げないといけないんです。最近は毎日3時間睡眠なんです。ナポレオンかって感じですよ。いえ、やりますよ。やりとげてみせますよ。でも大きなイベントなんで万全の体勢で望みたいんですよね。行きたいサークルも買いたい本もたくさんありますし。これを逃したら『本田菊』の名折れです。あと3日なんで一分一秒も惜しいんです。というか正直言ってここでこうしている時間も惜しいんでさっさと神にでも誓ってくれますか?むしろ命懸けてくれませんか?

「・・・善処します」
 
 双方からの流れるような訴えに、アルフレッドが言える言葉は他になかった。