これは『ドラマ・ヘタリア』計画が公表される数ヶ月前のことである。




 ピンポーン

「はーい」

 カークランド家のチャイムが鳴らされたのは、世間では平日の昼間でアーサーにとっては冬休みのとある日であった。

『こんにちは』

 インターホンのディスプレイに映った柔和な笑みを浮かべた男性にアーサーは目を瞬かせた。

 見覚えがあるような気はするが、さて誰だったろうか。
 ピーターの学校の関係者か、兄たちの仕事関係者か。

 アーサーの戸惑いに気づいたらしい訪問者はカメラに向かってからかいを交えた笑みを浮かべた。

『久しぶりだから分からないだろうな。フレデリックだ』
「フレデリック・・・・・・あ、社長さん!」
『おお、よかった。数年ぶりとは言え、誰だっけって言われたらおぢさん泣いてたよ』
「す、すいません!今開けます!」



 嵐が来ました



「急にやってきてすまないね。アーサーくん」
「こちらこそ、最初は気づかなくて・・・」
「最後に会ったのはピーターくんが産まれたときだったっけ」
「はい。お祝いにベビーベットまで頂きました。――粗茶ですが、どうぞ」

 長兄パーシヴァルの所属する芸能事務所の社長であるジョージ・フレデリックは、恰幅のよい体をリビングのソファに沈めると人好きのする笑みを浮かべてみせた。

「相変わらず礼儀正しい子だな。ああ、二三聞きたいんだが」
「なんでしょうか?」
「イギリス英語は喋れるかい?」
「?はい」

 アーサー自身はこの国の生まれだが、亡き父母はイギリス出身だったため家での会話はイギリス英語だ。

「試しにこれ読んでもらっていいかな?出来れば感情を込めて」
「えーっと、『お、お前のためじゃないんだからな!俺のためなんだからな!』。・・・・・・なんですか、これ」
「・・・・・・」
「?」
「アーサーくん」
「はい」
「うちで仕事してみない?」
「・・・・・・はい?」