会議場のドアを開けるなり間髪入れずに閉めるという玄人芸人並のリアクションをした後、曲者と評判の監督に引きずりこまれた少年はアーサー・カークランドと名乗った。
 金色の髪に緑の目、少年と青年の端境期に位置する容貌。
 困ったように眉間にシワを寄せている様は、柔和で邪気のない雰囲気を張り詰めたものにすればパーシヴァルに似ていなくも無い。

 彼がアルフレッドの言っていたカークランドの四男か。
 あの癖が強い兄連中が溺愛している自慢の弟というだけあって、今時珍しくもスレた感じのない礼儀正しく大人しそうな子だ。

 カークランドでなければ粉をかけるぐらいはしていただろうと彼らしい考えで締めくくったフランシスの隣では、ガヴェインにくれぐれもと頼まれたというアルフレッドがアーサーに迫る監督を止めようか止めまいかとおろおろしている。

 困っている弟には悪いが、今は傍観者の位置から動く事は無かった。

 仕事はシビアに楽しむものだ。
 それに最も重要なのは環境。もっと詳しく言えば人間だ。
 いい役者との共演は自分を育てるし作品もいいものに仕上がる。反して悪い役者との共演は害はあっても益はない。

 さて、箱入り少年の力量、見極めさせてもらおうかね。


 
 一芸



 困惑している事がありありと分かる表情のアーサーを見、アルフレッドは彼のトレードマークである朗らかな笑顔を崩すことなく取り乱していた。

 これって未成年を誑かしていることになるんじゃないだろうか。むしろ新人イジメじゃないだろうか。いや、確かに俺はコーラを一気飲みしたけども。本田センパイも無表情かつ平坦な声で円周率を暗唱したけども。
 この監督がこういう悪ふざけとしか思えない行動が多い人物だというのは業界では有名な話だし、悪意がないというのは重々承知だから無理をして止める必要なんてない。

 だけれども、後でこのことを知ったガヴェインの反応が怖い。ブラコン怖い。超怖い。

 止めようか。でもどう止めようか。

 脳内が踊りだしそうなアルフレッドのことなど気づいていないアーサーは監督と何かを話した後、王がジャグリングに使ったリンゴを手に取った。
 赤くておいしそうな実を左手で掴み、空いている右手で監督の持ってきた果物ナイフを受け取る。

「えーっと、じゃあ、ウサギ作ります」

 は?

 このときの周囲の心情は一致していたと思う。

 ウサギってあれかい。
 日本のお弁当に入ってたりするあれかい。
 いや、あれは確かに作るの結構難しいって聞いたことあるけど、ここで披露するほどの一芸ってほどじゃ・・・。

 呆気にとられたアルフレッドを含む共演者一同の目の前で、リンゴにナイフが突き立てられる。
 その後は数瞬の出来事だった。

 どこにどうナイフを入れたのか分からないほどに手早い動作で切られた――否、彫られたリンゴは、8等分されることも皮が耳の形になることもなく、あっと言う間に手のりサイズのリアルで立体的なウサギの像となったのだった。

「おー!」

 上がる歓声と拍手。

 ・・・・・・ガヴェイン。君の弟、結構強いよ。