フランシスを伴ったギルベルトがカリエド宅に着いたのは夕日が沈み始めた頃だった。

 実は結構いいとこの坊ちゃんなアントーニョの自宅は、高級マンションの最上階をワンフロア丸々全部といういかにもなものである。
 どんなに騒いでも外に迷惑がかかることはなく、マスコミ的な意味でもセキュリティは万全。散らかしてもハウスキーパーが片付けてくれるから遠慮しなくていい。

 なので、3人で家飲みするときは大抵アントーニョの家ですることが恒例となっていた。

「いらっしゃーい。待っとったで」
「おう」
「ごめんねー。お詫びにククロフのパン買って来たから」

 フランシスが手に持った包みをアントーニョに渡す。
 中身は一口サイズのサンドイッチにアントーニョお気に入りのハラペノロールだ。

「おお。ちょうど食べたいと思ってたとこやで。よっしゃ、チューブトップで買い物行かすんは勘弁したるで」
「それ誰が得するんだよ。キモいだけだろうが」
「・・・よかった。買ってきてよかった」

 




 リビングのラグマットに座ると、チューハイだのビールだのといった酒を好き勝手開けて飲み始める。
 ツマミはデリバリーのオードブルにフランシスが買ってきたパン、ついでに買った菓子類だ。 

「そんでなー、その中止になった番組を別の日に撮り直すことになったんやけどー」

 いい感じに酔っ払ったアントーニョは間延びした声で今日あるはずだった収録について語りだした。

「それが2日後や言うんやでー。そないに急にスケ変えれるかっちゅうねんなー」

 あははははと笑う顔は自分の不幸を笑い飛ばしているように見えるだろう。
 だが、付き合いの長い2人にはその背後にどよどよと広がる暗雲が見えた。

 誰だ、こいつを裏表のない人格者だと言った奴。

「この番組、トラブル多いんだよねぇ。この前なんてカメラマンが疾走してたし」
「・・・失踪?」
「ううん。疾走」
「・・・・・・詳しく聞かんでもええ?」

 随分と常識はずれな番組であるということが分かっても何も嬉しくない。

「詳しいな。出たことあるのか?」
「あるっていうか、この番組の準レギュラーやってるからさ」
「・・・この番組って深夜枠やったっけ?」
「編集で削られてんじゃね?」
「人を歩く猥褻物みたいに言わないでよ!泣いちゃうよ!?」
「んなことおもとらんわ。お前と同列にされたら猥褻物がかわいそうやんけ!」
「・・・本当に泣くな、フランシス」