「『ヘタリア』?」
ドラマのオファーが来ていると言って渡された台本にはポップでカラフルな字体の題名が書かれていた。こういうのは大抵が漫画が原作の作品なのだが、それにしては全く聞いたことの無い言葉だ。
「日本で書かれた本が原作なんだって」
「日本の?」
ほにゃりと笑ったマネージャーのマシューは、絵コンテだのあらすじだのが記された資料をテーブルに並べる。
「本田菊さんを知ってるよね?彼が起案者らしいよ」
「本田センパイが?それは・・・ビッグでサプライズなことになりそうだね」
かつて共演で世話になった、大御所の名を冠するベテラン俳優の顔を思い浮かべる。
柔和な笑みが印象的な底の知れない人物だった。そういえば彼は日本出身だ。
「主演も彼なのかい?」
「ううん。フェリシアーノ・ヴァルガスだよ」
「フェリシアーノ?・・・彼は歌手じゃなかったっけ?」
「そうだよ。他にも何人か出演者を教えてもらったけど、演技の経験有無を問わずに登場人物に合った人を選んでるみたい。素人相手のオーディションもするとか・・・」
「へえ。随分と手のかかったことをするんだな」
「そのおかげで大きな仕事が入ったんだから、いいことだよ。君も主演ではないけど、話の中枢に近いかなり重要な役なんだから」
「グレイト!これでドラマ関係の仕事も増えるかもしれないな!」
「僕は不安で一杯だよ。アルフィー・・・」
しっかり者で心配性な彼らしい言葉にアルフレッドは快活に笑った。
「なに、大丈夫さ!大ボラにのった気持ちでいてくれ!」
・・・・・・・・・・・・。
「大ブネのことかい?」
「あれ?」
「もう。学生の本分をおろそかにしすぎちゃダメだよ。ああ、そうだ。キャラに合った人がいたら推薦して欲しいってさ」
「推薦?随分と斬新なことをするじゃないか」
「監督が監督だからね・・・・・・」
「・・・・・・ああ、この人か」
灰汁の強い業界人の中でも曲者だと言われるほどの監督が指揮をとるならば、多少の無理無茶など容易に通るだろう。
「失敗はなさそうだよね。苦労も多そうだけど」
「突飛な噂の絶えない人だもんね」
「あ、そうそう。これがあらすじで、こっちが主要登場人物の簡単な設定だよ。一通り読んどいてね」
「ふうん・・・。このアメリカっていうのが俺の役なのかい。国の擬人化か。斬新な話だね」
「だろう?この日本っていうのが本田さん。イタリアがヴァルガスさんだよ」
「なるほど、確かにはまり役かもね。あ、このロシアってイヴァンそっくりじゃないかい?」
「イヴァンに?・・・彼って役者経験あるかな?」
「ないはずだぞ」
「だよねぇ・・・。でも、雰囲気とか体格とかすごく似合ってるよね」
「だろ?こっちのフランスなんて兄さんに似てるし」
「フランスって・・・・・・・・・ぶふっ」
アルフレッドが指差すキャラクターデザイン集には、股間にバラを咲かせた男がキラリンポーズをしていた。
まさしく変態という名の紳士だ・・・!
「ふ、フランシスさんが聞いたら怒るよっ?」
「笑ってるマシューも同罪なんだぞ」
リアルに想像してしまったマシューがテーブルに突っ伏して肩を震わせる。
なんだか本当にやっちゃいそうなあたりが役者としていいところで人として悪いところだろう。
「と、とりあえず、その2人を推薦しとくね?」
「俺が推薦したっていうのは黙っておいてくれよ。特にイヴァン!」
「怒りそうだもんねぇ。水道管持って追っかけられたりして」
「シャレにならないこと言わないでくれよ・・・。あ、それとさ」
「うん?」
「このカナダって、君っぽくないかい?」
「却下v」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「なんでだい!?」
「僕は君みたいに目立ち無くないの!この常備ステルス機能だけなら欲しいけど!」
「それ以上、印象を薄くしてどうするんだい!?顔なんて俺と同じように化粧して・・・。初対面の人に双子って勘違いされるし」
「だって、顔見せたくないもん」
「マネージャーと芸能人の顔が一緒って、逆に目立つだろう!?」
「営業戦略!」
「訳が分からないよ!」
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