とある真夏日のことだ。 炎天下の屋外での撮影は重い機材を扱うスタッフたちの体力を削り、重く厚い衣装を纏う役者たちから水分を奪う。 ちゃらんぽらんだが仕事に関して抜け目の無い監督は、シーンごとに短い休憩時間を設けることでそれに対応していた。さらにはスポンサー会社から飲み物や清涼グッズを提供してもらおうという手の回しっぷりだ。 流石は監督といったところだが、普通の対応に収まらないのも監督らしさというもので、機材や小道具を置いておく場所から離れた休憩スペースのど真ん中には巨大な氷柱が置かれていた。 手をあてて涼むもよし、削った氷で涼をとるもよし、タオルを冷やして首に巻く者もいた。 数時間に及ぶ撮影の開始からあるにも関わらず、わざわざ軽トラで運び入れた氷柱は未だにそこにでんとした重量とともに鎮座していた。 少し離れた木陰にシートを敷いて座ったアジアメンバーは、そのある意味絶景な光景にしみじみとため息をついた。 「どこから入手してきたのかが非常に気になるネ・・・」 「まあ、監督ですから」 「あー・・・生き返るんだぜー・・・」 タオルで包んだ氷のうに抱きついたヨンスが至福のため息をつく。 氷柱に抱きつこうとして制止されているアルフレッドや、削って食べようとして没収されているトーリスの姿があるものの、おおむね平和な光景である。 ほどよく冷やした緑茶を煽った王は、コップを置くと微妙な顔で右肩をぐるぐると回した。 「王さん、どうしました?」 「ん?んー、なんか最近、肩が重いのヨ・・・」 「歳なんじゃn・・・アイゴー!」
失礼なことを言ったヨンスの腕を捻り上げて組み伏せながら、王は深々と息を吐いた。 あいごぉぉぉと涙声で啼くヨンスをほったらかして行ってしまった王を見送るとアントーニョはローデリヒに向き直る。
「わてらも行こかー」
そのときのローデリヒの表情が一番ホラーだったと、後にアントーニョは語ったという。
「ローデリヒ?ああ、あいつ見える人だぞ」
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