こんにちは、画面の前の皆様。私、日本と申します。
 最近、二次元の世界で生きていると噂されております。まあ否定はいたしません。ただ無節操だの悪趣味だのと言われることは許せませんね。全ては愛の賜物なのです。
 そうです、愛です。例えガテンだろうと肥満だろうとアブラギッシュだろうと、可愛い仕草と言うものはありますし、小さい=可愛い=受けという図式が唯一の真実だなんて思ってません。でかかろうが可愛くなかろうが褥の上で喘がされる姿を思い浮かべるのは可能です。逆もまたしかり。これをフィルター効果と言います。
 某愛の国みたいに顔が好みならなんでも誰でもだなんてわけではなく、一般的に少数派なもの否定的なものにも愛を感じることが出来ます。これぞ博愛。言い換えるなら『萌え』でございます。

 前置きが長くなってしまいましたね。
 つまり何が言いたいかと申しますと、「この世界(いわゆるオタク世界と呼ばれるものです)は何でもあり」なのです。なのですが、受け入れた上で許せないものもあるわけで・・・。

 Q:何があったかって?
 A:アメリカさんを探して入った休憩室で、フランスさんがアメリカさんに押し倒されておられました。

 室内の様子を見た日本が朗らかで穏やかな観音菩薩のごとき笑みを浮かべてドアを静かに行儀よく閉めるなりBダッシュでその場を離れるまでの所要時間1分。



「イギリスさああぁぁぁぁぁんんん!!!」

 珍しくも分かりやすく取り乱した日本はノックもなしに会議室に入ってくるなり、帰り支度をしていたイギリスに飛びついた。というかしがみついた。

 いきなり駆け込んできた日本に室内に残っていた国が何事だと振り返り、向かった先がイギリスだと分かってアメリカ関連だろうと予想をつけて視線を外す。
 世界のトップである大国は性格を主として色々と問題があるが、ヘタにつつくと面倒なことにしかならない。あれは温厚柔和で芯の強い東の島国か、叱り慣れてる育ての親で元トップの西の島国に任せておくに限るのだ。
 てなわけで周辺国は聞き耳をたてながらも関わらない姿勢をとった。

「ツッコミ所が多すぎて突っ込まないところの方が少ない場合どうすればいいと思います!?」

 何だそれは。

 目をむいたドイツが日本に視線をやった。膝の上ではイタリアがシェスタ中だ(服を脱ぐのをやめないので毛布でぐるぐる巻きにされている)。

「・・・無視する?」

 周辺国の心情を代表してツッコンでくれるかと思われたイギリスは、あまりに鬼気迫る様子の日本に返答以外の言葉を向けることが出来なかった。

 何があったんでしょうね。とハンガリーがオーストリアに話しかける。

「じゃあ駆け落ちしませんか!?」
「・・・まあ、いいけど」

 迷言にさらなる迷言を重ねた日本に、イギリスは少し考えるそぶりを見せた後頷いてカバンを持ち上げた。

 少し離れたところでスペインが内職の道具を取り落として、中国が椅子の上から転がり落ちる。

「で、何があったんだ?」
「実は、アメリカさん、が・・・」
「あいつにまた何かされたのか?」
「されたわけではないんです。いやされたといえばされたんですが、むしろしたというか、やっていたというか・・・えぇと・・・」

 いつものような会話をしながら立ち去っていく二国はいつもどおりの空気で、あれは暗号の一種か何かだったのだろうと無理矢理結論付けようとした周辺国に立ち去り際に最後の爆弾が落とされた。

「恋人が他の人を押し倒している場面に遭遇した場合、それを拒絶するのは当然の行動ですよね?」
「ああ・・・よーっく分かった」

 パタンとドアが閉まる。
 その後の会議室では「美国殺」と太極刀を片手に飛び出そうとした中国がドイツと韓国に止められていた。


***


 最悪だ!

 会議が終わった後、俺は日本と食事に行く約束をしていたんだ。ほら、この前フランスのミシュランin東京が出ただろう?あれに紹介されてた三ツ星の店に行くつもりだったんだ。

 だけど終わって帰ろうとしたところで、フランスから受け取らないといけない書類があったことを思い出して日本と一端別れてフランスを探したんだ。
 彼は休憩室でタバコを吸ってたよ。会議場は禁煙だから仕方ないよね。でもだからって書類を渡し忘れたまま行かないでくれないかな。

 で、書類を受け取ろうとして近づいて・・・転んだんだ。
 全くヒーローにあるまじき失態だよな。床に落ちてたバナナの皮で滑るなんて。

 しかも転んだ先には片手にタバコ、反対の手に書類を持ったフランスがいたんだ。
 そのまま倒れ込んで二人で床に転がったよ。俺は受身をとれずにフランスの上に突っ込んで、フランスがぐぇって声をあげた。
 重い!って言われたからそんなに太ってないよって返して腕をついて起き上がろうとしたところでドアが開いた。
 顔を動かしてそっちを見ると日本が立っていてこっちを凝視していたんだ。
 そしてどうかした?って聞こうと口をあけた瞬間に、なんでかすっごく綺麗なのに怖い笑顔を浮かべて静かにドアを閉めてしまったんだ!
 どうしてなのか分からずに驚いていたら閉められたドアの向こうからイギリスの名前を叫ぶ声が聞こえた。

 まずいなってフランスが言った。それからまずはどけって。
 だから退いて、二人で床に向かい合って座った。
 それからとんでもないことを言われた。

 冗談じゃないぞ。日本に俺がフランスを押し倒したって誤解されたうえにイギリスに泣きつかれるなんて!

 だから俺は日本を追って会議室に行って・・・中国に斬り殺されかけた。すっごく怖かった。ホラー映画並みに怖かった。
 だって目がキレたイギリスと同じくらい怖かったんだ!


***


 頭上には星空。遠くには小さな街の灯り。周囲は穏やかな水面が広がっている。

「静かだな」
「ええ、本当に・・・」

 ここはアメリカ東部の港からクルーザーで3時間ほど離れた沖である。

 会議場でイギリスにすがりついてきた日本はらしくもなく取り乱しているのと同時に泣きそうであった。他の国には(中国は例外かもしれないが)分からないだろうが、纏う空気が泣き叫びたいと嘆いていた。
 だからあの訳の分からない発言に特に説明を求めるでもなく頷いたし、こうやって連れ出してもみた。

 ここに来る道中で言葉を濁そうとする日本を促して問い詰めて聞き出したところによると、休憩室でフランスがアメリカに押し倒されていたのだと言う。何やってんだあの髭。

「・・・イギリスさん」
「どうかしたか?」
「あの、つき合わせてしまってすいません」
「そんなことか。気にしなくていい。どうせ予定なんてなかった」

 あのまま放っておくのも後味悪いし。気になるし。いやお前友好国だし、アメリカの子守を一人でするのも大変だし。とかそんなことをつらつら並べると日本はわずかにだか笑みを浮かべた。

「でも、フランスさんのこと・・・」
「別にいい。あれが浮気するたびに取り乱してたら、3日に一度はお前に泣きつく計算になるんだぞ?」
「・・・・・・すいません」
「気にするな」

 フランスの浮気性は息をするのと同じようなものだ。止める気なんてとっくの昔からない。
 そりゃ気にしてた時期もあったにはあったが昔すぎてもうどうでもいいと思えるくらいだ。

 溜め息をついて甲板に置いたイスの背もたれに体をあずけた。

「なんつーかさ、お前も分かってんだろ?」
「・・・ええ」

 アメリカに浮気するような度量はない。
 いや、やろうと思えばできるのだろうだけど、そんな不誠実なことをするような性格ではないというべきか。

 日本にそれぐらいのことが分からないわけがない。

「・・・本当の理由は?」
「そう、ですね・・・」

 心配になったからでしょうか。

 呟く日本の声はかすれたように小さくて弱弱しい。

 だって最初に見たとき、本当に本気で浮気を考えたのだ。
 そして考えた自分に驚いて同時に嫌悪を覚えた。私に彼を束縛するような気はなかったはずなのに。

「イギリスさん。私はあなたが羨ましいんです。いえ、憧れているんです。フランスさんがどんなに不誠実なことをしても貴方は平然としていらっしゃいますから。・・・これが信頼するってことなのだろうなって、そう思ったんです」

 俯いて膝の上にのせた拳を握り締める。
 泣いてはいない。悔しそうな申しわけなさそうな顔だ。

 もっと余裕をもって構えていると思っていたのに、思わぬことに予想以上に取り乱した自分が許せないのだろう。

 ゆっくりと日本が顔をあげた。
 強い光を称えたいつもの日本の目になっている。

「もしアメリカさんが押し倒していようが押し倒されていようがネタとしてカメラを構えるぐらいの余裕が自分にはあると思っていたのに・・・!」

 日本復活
 そんな単語がイギリスの脳裏に浮かんだ。
 先ほどまでのシリアスなムードなど皆無である。

 ここまでいえるぐらいに自分を取り戻せたなら大丈夫だろう。
 あとはアメリカが迎えに来るのを待てばいいだけだ。フランスも手伝っているだろうからそんなに遅くもなるまい。

 帰ったら滝に打たれて精神統一しようかと思いますと告げた日本に風邪はひくなよと念を押した。
 もし日本が倒れたら時差なんて関係なしでアメリカから電話がきて中国が割り込んできてトルコとギリシャが聞きつけてやって来て大騒ぎになるに決まってるのだ。

「・・・お前って愛されてるよなぁ」
「え?いえ、それならイギリスさんのほうが・・・」
「いや、そんなことはないと思うぞ」

 未だにどうしてフランスが自分と恋仲と呼ばれる関係になろうとしたのか分からないし、かわいらしい部分なんてこれっぽっちもない。

「・・・私は好きですよ」
「日本?」
「イギリスさんのこと、好きです」
「日本・・・」

 イスに座ったまま二人は見つめあった。そして・・・


***


 俺も多少は悪いのかもしれない。被害者であると同時に加害者である立場はかなり難しい。だけどこれはないだろう。
 とりあえず叫ばせてくれ。
 
「ちょっと待てー!!!」

 慌てふためくアメリカを宥めすかしてイギリスと日本の行方を追ってやってきた大西洋の海上で、連れの恋人が自分の恋人とピンク風味ないい雰囲気になっていた。
 
 フランスの声に振り返った二人は揃って不服そうな表情をしている。
 顔にはいいムードだったのに邪魔すんなと書いてあった。

 仲がいいのは分かったから今はやめてくれ。連れのボーヤが黒いものを出しているんだ。

「日本・・・」
「近づかないで下さい。私、イギリスさんと駆け落ち中なんですから」
「いや、あの、イギリスは俺の・・・」
「黙ってろ、髭」
「はい」
「あれは事故で」
「何が事故ですか。それにしてはしっかりと胸の上に手が乗っかっていたじゃないですか」
「なんか誇張されてる!?」
「落ち着け日本。本当にアメリカは床に落ちてたバナナの皮で滑って」
「どんなコントだよ。それよりお前、アメリカに手ぇだすなっつっただろうが。なんで胸はだけさせてさらには触らせてんだよ」
「さらに誇張されてるんですけどー!!?」

 俺なんかしたっけ?
 ・・・心当たりがありすぎてどれも今更なんだが。

「とにかく帰r」
「嫌です。このままイギリスさんのお宅へ行って式あげるんですから」

 ウエディングドレスにお色直しは青のカクテルドレスです。白い海辺の教会がいいですね。
 え、俺が女役なのか?
 駄目ですか?・・・じゃあ途中から交代しますか。私、白無垢着ますよ。

 これイジメ?イジメですか?

 かくして夜は明けていく。

「ごめんって日本ー!」

 叫びを海風にのせて。








 思った以上に米日要素が強くなった・・・。フランスとかちょい役だし。

 最後のところの日本、イギリスは恋人で遊んでます。なんだかんだ言って迷惑かけられてるので。
 アメリカがフランスの胸を触ったっていうのは、起き上がろうとしたときにうっかり手をついていたからです。
 この後は日本がアメリカを許して、イギリスもフランスと一緒に帰宅。
 しばらくアメリカとフランスは会議場に居合わせた国から微妙な目でみられます。