天国にいらっしゃるでしょう親父殿。お元気ですか?
 世界中を巻き込んだ大戦から数十年。ドイツが東西分断されたり、ケーニヒスベルクがロシア領となってカリーニングラードと名を変えたりという変動の時期でした。

 俺――プロイセンは、解体宣言後は東ドイツとして残ることとなりました。そのため冷戦の際には共産主義側につくことになりかつて軍国だったという面影がないくらい弱体化してしまい、再統一時には消失寸前まで追い込まれました。
 あの時のヴェストの取り乱しっぷりは凄まじかったです。泣きながら「死ぬな」と言われたのは兄冥利に尽きますが、それにしても凄まじかったです。お陰でまだしばらくそちらに行けそうにありません

 まあ、そんな紆余曲折を経まして今は東ドイツとカリーニングラードの両方を司っています。
 どちらか片方だけならともかく全く異なる2国の土地を兼任できるとは、まだまだ俺達”国”という存在は謎に包まれていますね。
 でもポーランドも何度も分割されても国として存在していたのだからこれぐらいはありなんだろうと思います。
 ヨーロッパの連中は未だに俺のことをプロイセンと呼ぶから、わざわざ深く考えるようなことではないのかもしれません。

 そんな俺ですが、ここ最近は国際の場に出ていません。
 冷戦による体調不良は大分よくなったのですが、俺は結局は亡国だしドイツのことはヴェストがしっかりとしてくれるのでなんの問題もないというのが一番の理由です。

 言っておきますが働く事が嫌なわけではないです。
 偶に軍の教官をしたり、忙しい時期だけヴェストを手伝ったりするぐらいはしてます。
 ロシアに補佐官をしないかと誘われることもありますが、こちらは丁重に断っています。・・・・・・あいつの妹が殺気を投げかけてくるからではないです。断じてそんなことはないです。

 フランスやスペインにはニートだのなんだの言われますが、そんなのは無視です。ちゃんと自分なりに稼いで、弟に集らず遊ぶ程度の収入は得ています。・・・仕事内容はヴェストに言えないようなことも入ってますが、その辺はばれないように気をつけてます。

 まあ、仕事の内容はさて置き、最近の俺は世界中を旅しています。
 半分は道楽ですが、あとの半分は訳があってのことです。

 今日は、そのことについて話したくて来ました。

 俺には弟子が居ます。
 ここから東に行ったところにある島国で、俺よりも長生きしているのに俺よりも若く見える奴です。
 とても勤勉で、芯が強くて、穏やかな性格の奴です。

 長年自分の家に引きこもっていた彼はある日外に連れ出され、その果てに世界に傷つけられてしまいました。
 誰かが悪かったわけではないです。
 時や場所が変われば、正しいことも変わる。彼はその犠牲になってしまったのです。
 彼は傷を抱えて苦しんで、終には世界を拒絶してしまいました。

 救いと言えるのは彼に同志が居て独りでないことでしょうか。
 彼は・・・いえ、彼らは世界に背を向けて寄り添って生きています。
 それが正しいのか否かなんて俺には分かりません。
 自身の殻に閉じこもって生きている奴を、俺は軟弱者だと思っています。ですが、それは俺の価値観であってその価値観を彼らに押し付けるべきではないと思ってもいます。

 ようするに俺は、彼らを諌めるつもりも説得する気もないのです。

 あれも1つの生き方――国としての在り方なんでしょう。
 少なくとも彼らは幸せそうです。たくさん笑って、好きなことをして、楽しそうに話します。
 俺達は国で、国は国民のために生きています。でも、少しぐらいは自分のために生きてもいいですよね。

 弟子は今でも俺のことを師と呼んでくれます。彼の同志たちも俺を邪険にすることはないです。
 一緒に来ないかと、誘われたこともあります。

 だけど俺はヴェストの味方で、あの子が彼らと敵対している限りは決してあいつらの側につくことはないでしょう。

 その上で俺には俺の考えがあります。

 えー・・・長々となりましたが、ようするにですね、適度に距離を保って関わるぐらいならいいんじゃないかと思うんです。
 彼らの傍から見た世界と、ヴェストの隣から見る世界。その両方を知る事が出来るのは、とてもいいことでしょう?

 世界を散歩する途中でふとすれ違ってみる。
 そして時間があればちょっと食事をして、たわいないことから人に言えないことまで話してみる。
 それぐらいの付き合いは許されますよね。

 世界は、そんな俺をどっちつかずの蝙蝠だと嘲笑するかもしれないけれど。
 もう俺は国はあっても世界のために生きる必要はないから。
 俺はこれが俺の生き方なのだと胸を張って言いたいのです。

 






 
  











 プロイセンは中立の立場に立っていて、でも不可侵じゃなくて両方と繋がりがあります。
 普段は世界中を飛び回って悪行から善行まで色々としつつ、SHKと情報交換したり国連に協力して闘ったりしています。国連にはSHK遭遇率が高い奴だと思われてはいても、SHKと親交があるとは思われてません。
 彼がプライベートでしてる仕事内容は、まあ、色々ですが、マフィアの食客してるところにSHKが乱入する話とか書きたいなーと思ってたり。