「なあ、ワーニャ。俺は無茶な要求をしているわけではないと思うんだ」
「・・・・・・」
「政治的な理由なら張り合ったりぶつかり合ったりしても双方間の問題だから何も言わないさ。だけどな・・・プライベートでの喧嘩を仕事場に持ち込むのは駄目だろう」
「・・・・・」
「根っから仲が悪いというのはよぉっっく分かってる。だけどな、なんだかんだ言ってガキの頃から面倒見たり見られたり一緒に暮らしたりしてるんだぞ?」
「・・・・・・」
「それに結構、気が合うと思うんだよな。・・・ああ、あれか、似たもの同士の同属嫌悪なのか。ワーニャもそう思うか?」
「・・・・・・」
「前の喧嘩の原因なんて風呂に入る順番争いだぞ?おまけに風呂に入らないといけなくなった理由が一緒に河に落ちたからだし!」
「・・・・・・」
「そうなんだよな。あいつら両方とも原因で当事者なんだよな。だから面倒なんだけどな・・・」
「・・・・・・あの、イギリス」
「でもなぁ・・・あれは理不尽だと思うんだ。なんであいつら2人の苦情が俺に来るんだ?躾け直せって?元からあんな性格だったぞ、あいつら」
「おーい、イーギーリースー」
「ようするに悪気がないんだよな。・・・一番面倒なパターンだ」
「もしもーし」
「もういっそ調教してみるか・・・。日本とかエストニアに言ったら手伝ってくれそうだよなぁ。場所はロンドン塔なんていいと思わないか?・・・ああ、同意してもらえて嬉しいよ」
「おい!」
「三食抜いて一週間ぐらい監禁して教育ビデオ見せ続けたら人格ごと変わらねぇかな?・・・いや、すぐに元に戻りそうだな」
「イギリス!聞いているのか!?」
「・・・・・・」
ぶつぶつと暗くて黒い言葉の羅列を繰り返していたイギリスは、フランスとドイツの呼びかけにようやく振り向いた。
「うっせぇよ。その口縫い付けて溶鉱炉に放り込まれてぇか」
殺気大放出の視線に物騒な口調とその内容。
なんだこれはと顔を引き攣らせたドイツに対し、付き合いの長い隣国はタフだった。
「そろそろ会議を再開したいなー・・・とか思うんだが」
「勝手にやってろ。なあ、ワーニャ」
「・・・先ほどから気になっているんだが、その猫は何だ?」
ショックから立ち直ったドイツが指差したのは、会議室の椅子の上に体育座りをして蹲ったイギリスの膝の上に乗る猫。
灰色の毛並みと緑の目を持った猫は、ロシアンブルーだと思って間違いあるまい。
「俺の飼い猫」
”みゃー”
簡潔なイギリスの返答にあわせるように猫が鳴く。
先ほどからイギリスが零し続けている言葉に一々鳴き声で返答して、本当に会話しているのでは?いやいやまさか。な周囲の状況を作り出していた猫だ。本当に人語を解しているのかもしれない。だって話を中断させたフランスとドイツを睨みつけながら不機嫌そうに尻尾を振っている。
「少し前に拾ったんだが、いい子だぞー。いきなりやって来て騒いだりしないし、部屋を壊したりしないし、大衆のど真ん中で殺気を振りまいたりしないし・・・」
”みゃぁおぅ”
「ああ、一緒にしちゃいけないよなー。それにしてもあいつらは本当に・・・」
”にゃ”
「いっそ社会生命根絶させてやろうか・・・。そうしたらもっと謙虚になるかもな」
”うなぁご”
「そうだな、それがいいな。・・・実に楽しそうだ」
ふふふふふ・・・と笑い始めてしまったイギリスに、とうとう仏独両名も撤退してしまう。
他の国はすでに室外に避難済みだ。日本や英連邦ですら遠巻きに見ることしか出来ない。
廊下に脱出したドイツは隣のフランスを見、先ほどから続く疑問を吐いた。
「あのイギリスは・・・なんだ?」
「えーと・・・ああ、あれだ。鬱期?」
もしくはキレるよりも対処しにくい状態。
生気のない空笑いと共に全く助けにならないことをのたまったフランスを、役立たずだと批難できる者はいなかった。
色々ストレスが溜まったイギリス。
ロシアンブルーは元はロシアに生息しており、その後イギリスに渡った種類の猫だそうです。
それとロシアの名前であるイヴァンの愛称はヴァーニャ、もしくはワーニャ。暁は前者のほうが気に入ってます。なので猫がワーニャ。
イギリス曰く、猫を拾って名前を考えたときに最初に思いついたのがワーニャだっただけで、ロシアの愛称も同然だとは指摘されるまで気づかなかったそうです。
のちにロシアに「(色々と恥ずかしいから)変えて」と言われましたが「ワーニャとヴァーニャじゃ違う!」と一蹴し、それ以来そのまま。そのうちアルフィーとかいう名前のアメリカンショートヘアが追加されるかもしれません。
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