クリスマスのカウントダウン真っ只中のパーティー会場。
盛り上がりを見せる中で1と叫ぼうとした瞬間に部屋の照明が消える。
ワイングラス片手に点呼の声に混じっていたフランスは最初、何かの演出かと思っていたがそれにしては唐突過ぎる気がして隣のアメリカを見た。月明かりしかない室内は暗いが、すぐ隣の人の顔がみえないほどではない。
視線が合うとアメリカは険しい表情で首を振る仕草を見せた。
少なくとも予定にはない出来事だと言うことか。
他国も状況のおかしさに気づいたらしい。
「アメリカ、これは・・・」
いつの間にか近づいてきていたドイツがアメリカに声をかけようとした瞬間、それはおこった。
盛大なファンファーレとともに流れる軽快な音楽。ところどころにクリスマスという単語が聞き取れるだけの外国語の歌詞に困惑していると、ステージの上の大型スクリーンに光がともる。
「レディースアンドジェントルメーン。メリークリスマースアンドハッピーアンニューイヤー!!!新年はまだ一週間先だよ。でも祝ってあげようイベント!ドキドキハラハラ賭けるのは人生SA☆かくれ鬼大会InNewYork!!ByS・H・K!」
映ったのはどこかの外の景色だった。雪が降っていて石畳の道とネオンのうつる水面が見える。
そして着物にどてら、さらに湯たんぽを抱えた日本がやたらに派手なモミの木型のマイクを片手に叫んでいた。
画面を見たドイツが料理の並べられたテーブルに突っ伏し、イタリアが涙目で慌てているのをロマーノが殴って止めている。
フランスも泣きたかった。中国は泣いている。
「にほん〜」
「兄貴、しっかりするんだぜ!」
「なにやってるんだい・・・」
流石のアメリカも声に覇気がない。
テロかと思って身構えた側としては気が抜けるやら苛立たしいやらで、何か一言言わずには済ませられない。
だが日本は、こちらの空気が読めているのかいないのか(そもそもこちらの状態を分かっているのかどうかが謎だ)にひやりと笑った。にやりではない。にひやりだ。とりあえず声は聞こえているらしい。
「ふふふふふ。よくぞ聞いてくれました!それではイギリスさん!どうぞ!!」
画面が切り替わって映し出される赤と白。雪が見えるから外なのだろうがどこなのかさっぱり分からない。
その中で座り込んで手に持った何かをいじっていたイギリスは何かに気づいたように顔をあげて、慌てて手に持ったものを隣の箱に乱暴にしまいこんだ。
「うわわわっ!日本、早すぎるぞ!」
『あ、すいません。えーと、時間がないのでお願いします』
日本の姿はないままで声だけがして、それに応じたイギリスが箱の中から雪だるま型のマイクを取り出した。
「じゃあ説明するぞ。これは端的に言うと折角招待状をもらったのに何もしないのは悪いから、プレゼントをやるついでに遊んでやろうという企画だ」
「喜びよりも疲労が贈られてるんだが。主にドイツに」
「・・・まあ頑張れ。イベント内容はさっき日本が言ってたように『かくれ鬼』だ。範囲はニューヨーク全域。鬼がお前らで隠れるのが俺らSHK。もちろん実力行使の抵抗ありだが、体のどこかに触れれば捕まえたということにしてやる」
「参加しないことは可能ですか?」
尋ねたのはオーストリアだった。それに頷きながら是と答えたイギリスはさらに言葉を続ける。
「途中参加も脱落も許されるしペナルティもない。ただ全員同等の景品があるだけだ」
隣の箱から新たに取り出されたのは黒い装丁の大判の本。その小さな箱にどうやって入れてたんだと聞きたくなるくらいたくさんでてくる。
「なんだいそれ?」
「景品だ」
積み上げて自分と同じ高さになった本の一番上を叩いてイギリスは笑った。元ヤンらしいあくどい笑みだ。
「趣味実益その他で撮り集めてた多種方向弱み写真集!だ」
・・・・・・・・・・・・
暖房完備の室内にも関わらず、空気が凍りついた。
「・・・・・・なんじゃそりゃ」
「まあいわゆる恥ずかしい過去写真だな。前のエイプリルフールのときの没収写真とか、ちょっと裏技使って手に入れたやつとか、日本作の本物そっくりなやつ(いわゆるアイコラ)とか」
トルコの仮面をとった姿を見て固まるギリシャ(幼少期)写真(byエジプト)とか、掴まり立ち始めた頃のオーストリア(ブリ天マジックにより赤子化)とか、スペインの初恋・初告白・初キス(相手はなんと女装した幼児期フランス)現場とか、泣いて土下座するアメリカ(詳しくは『精神攻撃はやめてください』で)とか――。
「すいません、もう結構です」
フランスが頭を下げる勢いでイギリスを止めた。
行間が読めるスキルを持つ国が気まずそうに顔をそらしている。その一方で目を輝かせた国が戦闘体勢に入っていた。
「ちなみにどんな写真が手に入るかはランダムだからわかんねーぞ。いわゆる福袋ってやつだな。手に入れた写真は各自好きなようにしてくれ。売っても晒しても抹消してもいい。ただネガはないから一種類に一枚っきりだ。じゃあ次はスイスな」
その言葉を最後に再び画面が切り替わる。
次は船の上らしく、水面の向こうにネオンの光る街並みが見えた。
「・・・制限時間は今夜の12時。クリスマスが終わるまでである」
不機嫌な表情で立っているスイスの背後には巨大なデジタル時計が鎮座している。
「時間はこれで計る。開始は今から15分後だ。それまでに我輩たちが隠れる。それと・・・」
画面によってきたスイスが手を伸ばしてカメラのレンズを動かした。
「プレゼント、だ」
映し出されたのはStatue of Liberty。リバティ島に立つ自由の女神像、だと思われるもの。
ニューヨークの、しいてはアメリカの象徴とも呼べるものだが、どうにもこうにもコメントし辛いことになっていた。
自由の女神はかつて白人か黒人かで論争が起こり、結果として緑人ということになったように緑青の体を持っている。
その女神像が今は赤と白で覆われていた。
首元から足の先までを覆う白い綿のような布で縁取られた赤いローブ。ご丁寧にもトーチを掲げた右手には同種の袖が伸びていた。顎の下で金色のリボンで括り付けられ、おそらくリースを模したのであろう飾りが下げられている。さらには赤と白の三角帽子が被されていた。
「”女神像クリスマスバージョン”だそうだ」
一言で言えば女神様がサンタコスさせられていた。
「〜〜〜〜〜〜!!!???」
楽しそうだけどでも女神像だしやってみたかった気がないわけではないけどそれ一応象徴なんだぞ悪くはないんだけどさっていうかテロのせいで立ち入り禁止のはずなのに何やってんだい君たち。
あれこれ考えてでも声に出せないアメリカの肩をフランスが叩いた。
「・・・あきらめろ、アメリカ」
こうして、聖夜の戦いの火蓋は切って落とされた。
え?結果ですか?
んー・・・そのうちな。
ところでイギリス。像の上で何をしていたのだ?
・・・・・・・・・
編みぐるみですよ。
に、日本!?
あみぐるみ?
テディベアの毛糸バージョンです。
編むのが楽しくてつい・・・
また全世界分作ったのであるか・・・?
ん。いるか?一部は特別丈夫に作ってあるぞ。
・・・もらっておこう。
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