ようこそ、妖精の書架へ。
貴方は何をお望みですか?
傾城のお姫様の物語?
勇敢な騎士の武勇伝?
それとも、一夜にして滅んだ王国の悲劇?
ああ、そんなに焦らなくても結構ですよ。
そうですね、まずは紅茶でもいかがです?
それからゆっくりと貴方の話を聞かせてください。
もしその話が妖精たちのお眼鏡にかなったら、私めが貴方にふさわしい話をして差し上げましょう。
そう・・・歴史の流れに葬られた、真実の御伽噺を。
人が人として存在してからの世界の長い歴史には”失われた事実”というものがある。
この単語だけを聞くと、時の為政者が隠した不都合な歴史もしくは敗者が勝者に奪われた功績のことかと思うだろう。
もちろん、そういった歴史もここには存在する。
しかし、ここを訪れる者が望むのはそれよりももっと貴重な、それこそ日の当たる世界には欠片も見出せないような知識だ。
それは存在そのものが消されてしまった歴史。伝えるわけにはいかなかった功績。
かつて、魔法が確かな事実として存在し、今では空想の生き物とされる魔物と人が関わっていた時代を語ったもの。
時が進み、人が魔法を忘れ科学へ近づくにつれ、多くの魔法が失われ多くの魔物が弔われた。
それと同じくして、事実だったはずの歴史は御伽噺へと姿を変えてしまったのだ。
魔物を友とし、魔法の歴史を見守った彼は考えた。
その全てが消えたわけではない。消してしまうわけにはいかない。
全てを見聞きした自分が全てを語り続けようと。
歴史を、その過程で創られた知識を、それに付随した感情を、そして行き着いた結末を。
魔物と人の境界に佇む、御伽噺の語り部として――。
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