ボンソワー。みんなのフランスお兄さんだよー。 今世界経済はあちこちで大騒ぎだね。誰のせいとは言わないけどさ。 今日はドイツと一緒にアメリカに来てるよ。あー、熱で体がだるいなぁ。 懐かしいなこの状況。あの暗ーい気分になった木曜日を思い出すよ。 え、別に発言に他意はないぞ?またやりやがったなあのガキ。とか、どこぞの島国みたいなこと思ってないってー。 「フランス。目が全く笑っていない」 隣に座っているドイツが小声で知らせてきたが無視。 お兄さんは大きな子供の相手で精一杯なんです。 「なあ、アメリカ」 「なんだい?」 「今の状況、本当に分かってる?」 「分かってるよ!」 加害者であると同時に最もの被害者であるアメリカは、だるそうにソファーの背もたれに寄りかかりながら叫ぶように答えた。随分とヤケになっているらしい。 「俺が言ってるの、経済のほうじゃなくてあっちのほうの話だってことも?」 「・・・・・・・・・」 「だってこのパターンってあれだと思うんだよ」 「う゛・・・・・・」 国力・同盟なんのその。常識なんて通用しない。邪魔する奴には容赦なし。 そんな彼らの名は『世界引きこもり協会』――通称『SHK』。 捕獲計画はことごとく完膚なきまでに破綻させられ、1つの抗議には百も千も返してくる彼らに、引きこもりってこんなんだっけ?と悔し涙を流すこと数百年。 かつてはこちらから追い掛け回すだけだった彼らは、最近では積極的に関わってきては疲労感を残して行方を晦ます。 そんな彼らがこの騒動に顔を出さないわけがない。 無駄かもしれないけれど、対策ぐらいはとっておきたい。 だからEUを代表してドイツと一緒にアメリカへやって来たのだ。 もっとも、来て最初にしたのは忠告でも提案でもなくドイツによる数時間にも及ぶ説教だった。 「あいつらの能力を考慮する限り、並大抵の警備では太刀打ちできんぞ?今ここに現れることだって否定しきれない」 「それはそうだけど・・・。ここは大丈夫だよ。今のホワイトハウスは警戒レベル5の警備をしてるんだからk「あまーい!」 狙ったようにアメリカの声に被さる声。 スパーンッと思い切りよく窓が開け放たれ――窓の向こうの景色が先ほどまで見えていた中庭ではなく、どこかの室内であることはもはやツッコムまい。あの超常現象国家め。――、日本刀を装備した日本が入ってきた。 もう来たよ。来ちゃいましたよ。 部屋への出入りのためにあるドアもここがアイゼンハワー行政府ビルの3階だなんてことも丸々無視して窓からのご訪問だ。 「お久しぶりです。ドイツさん、フランスさん、脂身くん」 「あ、ああ・・・」 「ボンソワー」 「脂身って俺のこと?!ねえ、俺のこと言ってる!??」 そりゃ、この中でくん付けされるのはアメリカだけだしな。 「はいはい。ちょっと黙ってましょうねー。関西風スキヤキに入れて煮込んじゃいますよ」 入室早々、日本は遠まわしかつダイレクトにアメリカにケンカを売った。 初っ端からぶち切れているなー。 それにしても今日はアメリカをフォローしようという気持ちが全く湧かない。もしろ好きにしちゃってーと声には出さない願望が湧いてくる。 日本の挨拶に応じたきり黙り込んでいるドイツを伺えば、3次元空間の定義とそれに対する反事象について考察していた。 お前なぁ、これは科学力じゃ解明できないっての。 「さて、脂身くん」 「激しく返事したくないぞ日本・・・・・・」 日本は 「今日の訪問の用件はお分かりですか?それとも予想通り分かりませんか?まあそうでしょう、貴方ですからね。失望したりはしませんよ。貴方がそういうタイプの人間だということは想定済みですから。 さて、鎖国中といいましても政治的関わり以外は極めて開かれていることはご存知ですよね?電化製品ではトップシェアですし、車に至ってはほぼ上位独占の売り上げを誇っております。海外へ進出した企業も多いですし、株や貿易での繋がりだってあります。つまり、他の国――特に貴方のような大国が問題を起こすと、こっちにも影響がでるんですよねぇ・・・。ええ、今回の経済混乱の発端となった事象についてはそれなりの理解を示しておりますとも。貴方が開国しろとわが国にやって来てからほぼ400年。その頃から貴方の無茶な要求を黙って呑んで来たのは誰だとお思いです?まあ我慢して受け入れることはわが国の美徳だからだというのもありますが・・・。とにかくまず分かって欲しいことはですね、貴方が無茶することには慣れてるということですよ。何せ貴方より、更に言えばヨーロッパの方々よりも年嵩ですからね。そりゃぁ、忍耐もつくってもんですよ。金よこせ土地よこせ物よこせな方々相手に数百年、いや数千年・・・・・・。とっくに諦めなんてついてますとも!知っておりますよ。貴方だって頑張っていらっしゃるんですよね。法の改正に補助金の制定その他諸々。色々と考えて実行しようとなさっているのは重々承知です。ですが、それはそれとして今回のこれは老体にはきついんですよ。ああ、懐かしいですねぇ。いつぞやの木曜日!わが国には『同じ轍は踏まない』という諺がありまして、簡単に言うと『一度失敗したことは繰り返さないようにしよう』ということです。生き物は一度危ない目にあうと同じようなことにはならないように頑張るものです。でもそれが出来ないのも人なんですよねぇ・・・。私だって何度徹夜後イベントという苦境を味わったことか。ですけどコレは流石に規模がでかいですねぇ。また禿鷹来たらどうします?いっそウチが経済の中心になっちゃおっかなーって思ったり。うふふふふふふふ・・・・・・・・・。っと、そんなことは今は関係ないですね。現役復帰するつもりはないですから。私どもとしては、こちらに害が及ばない限り傍観してようと思ってたんですけど、こうも弊害が及んでくると困りましてねぇ。だけど支援なんて出来ないでしょう?何せ政治的関与は一切拒否している身の上ですからね。私は引きこもりなんです。安全な場所で外を見て、自分の都合のいい世界だけを見て暮らしたいんです。贅沢なんかせずとも、手近にゲーム機と贔屓サークルの冊子があって私の作品をイベントに出し日々おたく欲求を満たすことができれば最高です。そして縁の切れない友人と時たまのスパイスともいえる騒動がある。今の生活はまさに極楽なんです。それがよそ様に邪魔されるのは実に不愉快でして・・・・・・。おまけにあんなことになってしまっては、流石に黙っておけないんですよ。何度も言いますけど、支援はしませんよ。イギリスさんは英連邦の方々の面倒は見るおつもりなようですが、あの方はまた特殊ですからね。でも放置するのは気に食わない。ならばここは周囲の皆様に頑張って頂けるように陰からエールを送ろうかと思いついたわけです。ご協力いただけますよね?・・・・・・ああ、回りくどいと分からないんでしたっけ。そうですねぇ・・・先ほど告げたことを纏めて削って圧縮すると・・・とりあえず面貸せやですかねぇ」 日本は罵り言葉が少ない。だから温厚だと思われる。しかし、彼らの罵り言葉は言葉ではない、文章だ。彼らはそれを皮肉と呼ぶ。 なんとなく教書風味にしてみた。 そして是非とも俺の味わっている、頭の凍るような恐怖を想像してもらいたい。 言い出しなんてもう忘れてしまったがとにかく怒ってることとその原因とアメリカをどうしたいのかは分かった。分かったけどどう対応すればいいのか分からない。 そもそも彼の意識の中に俺達は入っているのだろうか。 ドイツなんて思考回路がフリーズしたのか宙を見つめたまま「南セントレア・・・」とか呟いてる。何処の国だ、それは。 「それでは旅立ちましょうか、脂身くん」 ドコニデスカ。 聞く暇なんてなかった。 脳内の疑問よりも早く、天井の板が破壊音とともに落下してきたのだ。 「「「・・・・・・・・・・・・」」」 呆然と天井に空いた穴を見上げれば、建物の屋根や上階の廊下の裏板だなんて一般的なものじゃなく、遮るもののない空が見えた。 ホワイトハウスに着いたときに見たときと変わりのない真っ青な空。 なんのタネも仕掛けもなく純粋に破壊されたらしい屋根からこの部屋に至るまでの瓦礫がパラパラ落ちてくる。 これってへタすりゃ国家レベルの問題になるんじゃ・・・。 「グッジョブです、スイスさん!」 びしぃっと親指を立てた日本の視線を辿れば、穴の向こうにスイスらしき人影が見えた。 お前ら罪悪感とか遠慮とか手加減とか・・・・・・ないですよね。そうですよね。 直すの大変だろうな・・・。 「どうして誰も来ないのだろうな?あの破壊音なら誰か気づきそうなものだが」 「ドイツ」 「そうだねー。上の階の職員とか大騒ぎしそうなもんなのに」 「フランス」 「我々以外やられているという可能性は・・・・・・」 「ねえ、ちょっと聞いてる!?」 「・・・・・・有り得ないって言えないのが痛いな」 「おーい!」 「全くだ」 「ふーたーりーとーもー!!」 「もしそうなら明日の新聞の一面は『ホワイトハウス、謎の襲撃!』だな」 「こっち向きなってば!」 「ますますアメリカの株価が暴落するぞ」 「君たち、わざとやってるだろう!?」 先ほどからアメリカが何か叫んでいるが、俺達は目の前の現実を考察するだけで精一杯だ。 だから俺もドイツも、網に捕らわれてもがくアメリカの悲鳴なんて聞こえないし、その横で楽しそうに網の先を天井から降りてきたフックに括りつける日本の姿なんて見えない。 「はいはい。大人しくしましょうね、アメリ・・・脂身くん」 「今、アメリカって言おうとしたよね!?なんで言い直すのさ!!??」 「あぁもう駄々こねないで下さいよ。焼肉になりたいんですか?日本人は脂の多い霜降りの肉が好きですからねぇ・・・。でも年寄りに脂っこいものは辛いんですよ。どうしましょうか」 「どうもしなくていいよ!なんだいこれは!?」 「投網です。主に漁業に使われますね」 「俺は魚かい!?」 「何をおっしゃってるんですか!魚は頭をよくする食べ物なんですよ!!?」 「君、昔そんなこと言って実は嘘だったじゃないか!」 「嘘じゃないですよ。食べる前より物が分かるようになったでしょう?」 「・・・・・・・・・・・・腹黒」 「スイスさーん。引っ張っちゃってくださーい」 「なにいっ・・・ギャア!!アアア!?アアア!!アアア!ァァァァァァ・・・・・・」 「世界会議までにはお返ししますねー」 日本の号令でフックが持ち上がり、床から天井に開いた穴へとアメリカin網が出て行った。 網に捕まって一緒に退場した日本の声がアメリカの悲鳴に負けることなく俺達の耳に届く。 さらばアメリカ。お前のことは忘れない。 日本(とスイスとアメリカ)が止める間もなく去って行った部屋はヤケに静かだ。 「「・・・・・・・・・・・・」」 なんとなく長い沈黙が続く。 「・・・・・・それで、フランス」 疲労感の漂う声で、ドイツが俺を見た。 俺はなるべく気楽に聞こえるように声を返す。 「なーに?」 「これからどうする?」 「・・・・・・・・・・・・」 現在の状況 ・不審者侵入。 ・屋根から穴貫通、天井崩壊。 ・国誘拐。 部屋に警備のシークレットサービスがやってくるまで後10分。 というわけでエセ(←事実考証0だから)時事ネタ。 別名・引きこもりが世界を救う企画inアメリカ。一応、続きものを予定。 魚と日本とアメリカの話は国のジョーク集より。 題名はとあるゲームが参考になってます(笑)。 日本の長台詞を書くのが凄く楽しかった・・・。 |