それは夏休みの中ごろ。
 自宅のリビングでのんびりごろごろしていたカークランド兄妹の妹が言い出した。

「ねぇ、アーサー。なんか怖い話してー」
「いいけど、2人じゃ面白くねぇな」
「じゃあ誰かのところに行く?」






・・・・・・・・・





「というわけだ」
「だからってうちに来るんじゃない!」
「ルッソは怪談とか嫌いなんだよなー。非科学的だのなんだの言って、本もテレビ番組も観ようとしないし」
「・・・実は怖いだけなんじゃないか?」
「違う!とにかくやるなら他所でやれ!」
「えー。じゃあ金色ワカメのところか、アントーニョのところに行く?」
「金色・・・ってフランシスか?まあ、あいつのところなら涼しいしお菓子が出てくるだろうが・・・」
「何言ってるんだ2人とも」

 ギルベルトとアイリスに向かってにこりと笑ったアーサーは、見た目の細さに反した腕力をもつ手でがっしりとルートヴィッヒの腕を掴んで言った。

「怪談っていうのは怯え悶え泣き叫ぶ奴を縛ってでも無理矢理参加させてこそ面白いんじゃないか!」
「「縛ってでも・・・・・・」」
「納得した顔をするなー!!」









 結局ボヌフォア邸にてヴァルガス兄妹&アントーニョも呼びました。

「お菓子とお茶足りてるー?」
「大丈夫やで」
「じゃあ、座れよ。俺がわざわざ怖い話してやるんだから有難がって聞け」
「嫌だといっているだろうが!!」

 薄暗くした部屋のソファーの上で両側から押さえつけられたルートヴィッヒが叫ぶ。

「にしてもルッソが怖い話苦手やったなんて始めて知ったわー」
「苦手なんじゃなくて嫌いなんだ!怪談とかしていると本当に集まってくるとか言うだろう!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「なんかルッソが言うと似合わないねー」
「そうだなぁ。・・・アーサー?何か黙り込んでるけどどうした?」
「・・・・・・・・・・・・」

 無言で部屋の中を見回していたアーサーは、周囲からの視線に気づき右手の親指を立てた。

「大丈夫!今のところザコばっかりだ!!」

 室内の空気が凍りついた。

「何!?なんかいるの!?」
「すでに!?まだ何もしとらんのに!?」
「ヴェー!!?」
「あ、やっぱり」
「やっぱり!?やっぱりって何!?」
「そういやアーサーが話すと出やすいって言ってたなー」

 予想していなかった状況に混乱する面々を他所に、兄の行動には慣れっこのアイリスとカークランド兄妹に毒されてきているギルベルトだけが冷静だった。

「ええ。夏は冷房いらずで便利よ。霊1体につき気温が0.2℃下がるんですって」
「そんな冷房はいらん!!」
「よく平気だな、お前ら」
「私はアーサーとは逆で全く感じないから。それにアーサーは除霊もできるしね」
「そうそう。俺が居れば大丈夫だから。それに霊の1体や2体、今更な奴もいるし。なあフランシス」
「・・・なんで俺見るの?ねえ、なんで俺(の背後)を見てるの!?」



+++++++
 アーサー:見える。祓える。
 アイリス:全く感じない。どんな影響も受けない。
 フランシス:常に色恋沙汰の生霊とかが憑いてる。
 ルートヴィッヒ:感じやすい。

 こういうのに怯えるのはヴァルガス兄妹のほうがはまり役なんだろうが、前に書いた小話で怪談に興味津々だったのでルートヴィッヒに生贄になっていただきました。助けてやれよ兄貴。