「某は久遠流草幻剣の使い手、久遠正敏!なかなかの手だれとみた!いざ、尋常に勝負!」
「ふっ・・・喧嘩を売られて買わぬは武士の恥・・・受けてたちましょう!」

 びゅおおおおと一陣の風が吹き、砂を舞わせて過ぎていく。
 対峙するのはアロハシャツに袴を着た青年(右手に刀。左手に肉)とこちらはアロハシャツに海パンの青年(右手に刀。左手にココナッツ)。付属品はともかく、二人とも真剣を構えている。

 以上が太平洋にあるハワイの美しい海岸で夕日をバックにして披露されている光景である。

「なあ、スイス」
「なんであるか」

 海パン青年から飲み終わったココナッツを受け取って離れていきながら、金髪・緑目の青年が隣の自分よりは色素の薄い青年に声をかけた。

「これで何人目だ?」
「二桁を過ぎたのは確実であるな」

 ハワイは日系の数が多い。そして日本人にとって人気の観光地である。
 そのことが関係しているのかは知らないが、ハワイに到着してから間もなく、今時武者修行などという古き習慣を行う剣士剣豪からの果し合いが立て続けに舞い込んできた。 国連の連中が配った手配書による追跡者を薙ぎ払っているうちに、強い剣士がいると噂になっていたのも原因らしい。
 最初は逃げたりして適当にあしらっていたのだが、だんだん古き武士の血が騒ぎ出した日本が刀を抜いたのを皮切りに、ハワイ湾に多数の敗者の屍が浮かびだした。
 しまいには飛び入り参加の挑戦者まで現れだす始末だ。

「楽しそうだな、日本」
「ああ、実に楽しそうである」

 止めようとすることを早々と放棄して、連れ二人は傍観に徹していた。

「その若さでなかなかやりますね・・・素晴らしい」
「ふっ・・・流石に手ごわいな・・・だがここで負けては先代に面目がたたん!アマゾンの奥地でピラニア相手に鍛えた技、受けてみろ!」
「その心意気やよし!きなさい!」
「いくぞ!奥儀・陽羅丹阿乱舞!」

 海岸端の道路に椅子(持参品)を置いて観戦しているイギリスとスイスの周囲に何時の間にか集まってきた現地住民や観光客から驚きの声があがった。
 目にも留まらぬ速さで繰り出された多方向からの突きが日本を襲う。

 海パン青年(野次馬命名)の負けかと思われたそのとき、青年の姿が消えた。

「なに!?」

 どよめく観衆。動揺する久遠。そして、心配した様子もなく近所の人から貰ったヤシの実を食べるスイスとイギリス。

「隙あり!」

 いつの間にか背後に移動していた日本が刀をふるった。久遠の体が宙に浮いて、砂浜に落ちる。

「そ・・・れは・・・草幻剣の秘儀・・・白鳥の太刀・・・何故、お主がそれを・・・」
「武人たるもの、これくらい出来なくてはね。・・・もう少し経験を積んでから出直しなさい」
「む、無念・・・」

 歓声をあげる観衆に照れながら手を振る姿からは先ほどまでの張り詰めた空気はない。
 ああ、いつもの日本だ。と、マンゴーを咀嚼しながらイギリスは思った。
 隣でスイスが車のキーを取り出したのに気づいて立ち上がる。

 今日はこのままホテルに直行だろう。観光は明日だ。

 遠くから近づいてくるパトカーのサイレンを聞きながら、3人は足早に立ち去っていった。






 SHKでハワイに遊びに来ました。
 ハワイはイギリス人のキャプテン・クックが発見したことにより白人との交流が始まった島だそうです。
 日本との姉妹都市も意外と多いし、日本語の通じる地区もあるとか。
 だから武者修行の人たちが来やすいんです。ちなみにこの久遠君、アマゾンから泳いできたという裏設定がありました。全く使わなかったけど。