いきなりですが、フランスが血を吐いて倒れました。


「フランス!」
「・・・・・・イギリス」

 病室に入るなり手に持った物を床に置いてベットに駆け寄るイギリス。
 フランスは寝かせていた上体を起こして、いつもより高いところにあるイギリスの顔を見上げた。

「よお、久しぶりだな」

 どこかちゃかしたような声にいつもの悪態が返ってくることはなく、恐る恐る伸ばされた手がフランスの頬に触れる。
 不安定に揺れる緑の目に視線を合わせてフランスが微笑むと、ゆっくりと詰めていた息を吐いてベットの縁に崩れるように座り込んだ。

 顔は俯けられていて見ることが出来ないが、細い肩が小刻みに震えている。

「フランス」

 少し間をおいて発された声は心なしか不安定で、宥めるように背に手をやってゆっくり撫でてやれば促されるようにゆるゆると顔をあげ・・・


「この忙しい時期にっ胃に穴なんて開けてんじゃねー!!」
「ぐほぉっ?!」

 右拳をフランスの腹に手加減なく叩き込んだ。


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 全世界にテロだ暗殺だ恐慌の到来だと騒がれたフランス吐血事件は、その原因が判明すると同時に大半の国が見事な足ズッコケを披露する結果となった。

 診断結果『神経性胃炎』。

 医師から診断結果を告げられたフランスの上司は、その結果を何回も聞き返した挙句に、エイプリルフールかどうかをカレンダーを(自宅と職場と行き着けの店と通りすがりの店全てで)何度もみて確かめた後、ようやく信じることが出来たという。
 
 あのストレスと無縁そうなフランスがストレスで倒れたのだからまあ当然の反応だろう。

 ちなみにイギリスも知らされた直後は信じられなかった。というか病室にやって来てベットの上にいるフランスを見るまで冗談だと思っていた。

 そして現在、イギリスは腹部に与えられた痛みに悶絶するフランスの横で爆笑している。ベットの端で震えていたのも笑いを抑えていたためらしい。

「フ、フラ・・・ス、が・・・胃、に穴、とかっ・・・あ、りえねぇ・・・く、くくっあはははは」
「笑うなー!」
「だって、お・・・んなに刺さっれ、たと・・・かなら、わかっけど・・・スト、ストレス・・・」

 ぜえぜえと息をつきながら笑うのをやめたイギリスは、立ち上がって入り口に置きっぱなしになっていた持参品を持ってきてフランスに渡した。

「見舞い品だ」

 まだ震えた声だが、外面を取り繕うつもりはあるらしく真面目そうな顔をしている。

「・・・百合?」
「ん」
「鉢植え?」
「ん」

 百合の花はフランス国花ではあるが、見舞い品としては首が折れるような外見のせいで好まれないし、鉢植えは根付くから入院が長引くことを暗示させるとして忌避される。
 ひねくれた労わりか純粋な嫌がらせかを考えて、どちらにせよ被害がきそうなのでそのまま受け取った。
 
「にしても国が胃炎で吐血して入院だなんて、ドイツもしなかったことをお前がするとはなぁ・・・」

 原因の一端、というか元凶にそんなにしみじみと言われたくない。例え本人に自覚が無かったとしても、だ。

 ・・・むしろ自覚を持って欲しい。

 診断結果を知った各国からの見舞いの品を見るに、その思いは世界共通であろう。

 ストレスの原因なんて考えなくても1つしかない。

「イギリス、話がある」
「・・・なんだよ?」

 ひとつ深呼吸をして、フランスはイギリスを正面から見つめて、言った。


「あの凶悪国の首に縄をつけてくれ・・・」

 本気で何言ってんの?っていう顔はやめてくれ。いやもうほんとまじで。




 何があったかはまた後日。