やっぱ青系か?緑もいいけどな。
スカートは嫌だぞ。
ええっ、ズボンじゃそんなにかわらないじゃないか!
プリーツとスリットどっちがいい?あ、ミニもあるぞ。
だからはかねえって。
ソックスとタイツ・・・ねえ、タイツとストッキングの違いって何なの?
生地の厚さだったような気がしますが・・・。
ガーターもいいよなぁ・・・。
なんでだよ。普通にパンツスーツでいいじゃねぇか。
スカート丈は是非、理想境丈でお願いします。
ちょ、日本!?
りそうきょうたけってなんだ?
スカートの中が見えそうで見えない丈のことですよ、フランスさん。
ヒールはまだ苦手なんだろ?ローファーにするかい?
あーうん。
ブーツもいけんじゃねぇ?
・・・会議だぞ、おい。
お披露目兼ねてますからね、全力で飾り立てさせていただきます。
いや、あの、日本・・・?
おーい、目が獲物を狙う猛獣になってるぞ。
おや、それは失礼。



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会話だけ

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 白いシャツに緑の上着。首元は黒のネクタイ。茶色のタータンチェックのスカート。
 下は黒いニーソックスとローファー。

 鏡に映る姿を凝視してこれでいいのだろうかと何度目かの自問を繰り返す。

「まーだ何か不満がおありで?」
「不満っつーか・・・なんつーか・・・」

 似合ってるのか似合ってないのか自分でよく分からないのが一番の悩みどころだ。

 鏡台前の椅子に座っているイギリスの後ろで櫛を片手に髪を結っていたフランスが同じように鏡を覗き込む。
 自分で出来ると言い張るイギリスを押し切って試行錯誤すること数分。ポニーテールだのお団子だのシニョンだのとあれこれ迷ってツインテールに落ち着いた。

「どうだ!」
「・・・いいんじゃないか?」

 自信作の料理を披露するときのように誇らしげに告げたフランスに、どうしてそこまで人の外見のことでハイテンションになれるんだと疑問に思う。それでも出来に不満はないので素直に同意しておいた。

 ・・・嬉しそうに笑ったフランスの顔に自分も嬉しくなったのは気のせいだ。

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 会議場の玄関に入ったところで声をかけられた。

「こんにちは、かわいいお嬢さん。お名前は?」

 ・・・兄弟揃って同じ反応しやがるのかてめぇらは。

 ニコニコと朗らかな笑みを浮かべたロマーノを殴ってしまおうかと考えて、それよりも先に疑問が頭をもたげる。

「ヴェチアーノから聞いてないのか?」
「は?」

 間抜けな表情で固まったロマーノに僅かに溜飲をさげる。それよりも気になるのは噴出すのをこらえて肩を震わせている連れのほうだ。
 じろりと睨みつければ片手をあげて返された。フランスの存在に気づいたロマーノが嫌そうな表情をしたことには内心で強く同意しておく。俺だって一緒に来たのでなければ朝っぱらからこの髭面に会いたくはない。

「先行くぞ」

 男2人を置き去りに歩み去っていく彼女の後方で事情を知らされたロマーノの悲鳴があがったのは、イギリスが声も届かないほど遠くに行ってしまってからだった。


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 滅多に揃うことのない国たちの心情はこの時ばかりは見事に一致した。

 ・・・・・・・・・誰!?




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 会議室のドアを開けると同時に注がれる視線。
 その中に困惑と驚愕の空気を感じ取って、このままUターンして帰りたくなった。プライドにかけてそんな逃げるような真似はしないけれど。

 とりあえず女装とか言われたら殴ろう。

 物騒な決心をしてドアを押し開けていく。筋力の落ちた腕には少し重いなと思っていると手にかかっていた重みが無くなった。視線を動かせばドア板が閉まらないように支え、こちらを伺うように見てくる見慣れた顔。

「カナ「姐さーん!」

 名を呼ぼうとしたのを別方向から遮る声。それと一緒にタックル同然に抱きつかれた。
 倒れこむようなことはしなかったがよろめくことは免れなくて、ドアを閉めたカナダが慌てて伸ばした腕に寄りかかることになった。

「オーストラリア!何して・・・」

「お見目麗しいですー!」

 カナダの叱責を見事にスルーしてオーストラリアは頬を染めながらイギリスを見つめた。身長はオーストラリアの方が高いから見下ろす形になるはずなのに、わざわざ屈んで顔を覗きこんでくるから上目遣いになっている。
 至近距離からなんの含みも無い純粋なきらきらした目で見つめられて、フランスにするように「何キモイこと言ってんだ」と殴り飛ばすわけにもいかず、その賛辞をただ受け入れた。

 懐かれるのは嫌じゃない。
 けどなオーストラリア。東南アジアメンバーが泣きそうな顔してんだけど?
 それとカナダは甘えるのを我慢しなくていいから、潤んだ目をやめろ。いじめてる気分になってくる。

 揃って自分よりも高いところにある子供2人の頭を撫でて、イギリスは溜め息を着いた。


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 さて、この集中された視線をどうしようか。

 抱きつき足りない様子のオーストラリアをカナダが引き剥がして連れて行くのを見送るついでに室内を見回す。ほとんどの国は慌てて視線を外したが、唯一こちらを見たままの国がいた。
 ・・・ぴくりとも動かないので硬直していると言ったほうが正しいのだろう。
 あ、内職の花が握りつぶされた。それオーストリアのじゃないのか?

「イ」
「い?」

 作っている途中の造花を跡形なく握りつぶしたスペインがようやく言葉を発した。
 声が思い切り裏返っているのは仕方のないことだろう。

「イギリスぅっ!!??」

 そういやこいつ女だって知ってたっけ。

 今日、予定時刻より早くやってきた国は不運だったとしか言いようがない。
 各人内心は違えど衝撃を受けた各国が手にしていたものを床に落とす音が室内を満たすなかで、当事者(とその身内)だけはどこまでも呑気だった。




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 椅子に腰掛けて組まれた足はすらりとして形がいい。スカートの裾から垣間見える白い太もも、くびれたウエストからはっきりと存在を主張する胸へと至り、形のいい艶やかな唇から万緑を思わせる碧の目へとうつる。柔らかそうな髪が肩にかかり、それを払う仕草はまあなんとも優雅なものだ。

「何があったん・・・?」
「んー・・・成長期?」

 小首をかしげる仕草は大変可愛らしい。しかしどんな外見だろうとこの少女はあのイギリスなのだ。
 もしうっかり外見に騙されようものなら間違いなく色んな意味で侵略される。

 衝撃のあまり引き裂いてしまった内職の花の残骸を片付けながらスペインは頭をふった。

「てんぺんちいのまえぶれや・・・」
「・・・スープにされたくなかったら黙ってろよ、トマト」


 

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「えーと、とりあえず」

 世界の常識(?)を覆され、なんかもう何が来ても驚かないぞ☆な状態の各国だったが、現実はどこまでも容赦が無かった。

 立ち上がったアメリカは着席している国を見渡して、見た目だけは朗らかな笑みを浮かべながら口を開いた。

「イギリスに手ぇだしたら、消しちゃうからね?」

 本気を示すためかうっかりなのかは判別がつかないが、アメリカが手をついているテーブルの表面にひびを入れるというオプション付き。

 ぐおぐおと笑顔のバックに黒いオーラを広げるなんてお前はロシアか。

 もし口に出したらダブルで笑顔&黒いオーラを向けられるであろうツッコミなど誰もしなかった。



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シスコン全開なアメリカです。

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『終わった後で』


今日の会議は皆静かだったなー。
・・・現実に全く追いつけてなかったからな。
イギリス、夕食一緒にどうです?
カナダずるい!
俺も行くからな!
じゃあ私もご一緒しましょうかね。フランスさんはどうされます?
もちろん行くさ。


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被害は?

 スペインの花(ノルマが大変らしい)。
 ロマーノの平常心(ナンパしたことがばれないかビクブルしてた)。
 会議室のテーブル(やった本人は安物だからだと不満そうに言っていた)。