飛び出そうとした体を捕らえられ、地面に引きずり倒され、屈強な男共に押さえつけられたスペインの前に立つ人がいた。 「ああ・・・誰かと思えば、スペインか。久しぶりだな?」 見上げた彼の横には、先ほどまで女王陛下に勲章を与えられていた男が並んでいる。自分の記憶に間違いがなければ、この男は自分を苦しめる海賊どもの頭のはずだ。それが何故、イギリスの傍らにいる? 「海賊のことは本当に申し訳ない。何せ彼らは」 しゃがみこんだイギリスは、ゆっくりとスペインの頬に手を這わせ、にんまりと笑んだ。先ほどまでの表情など、どこにもない。 目の前にいる彼は何をした・・・? 「俺の、いや・・・我らイギリスの、協力者だからな・・・」 そこでようやく、自分が嵌められていた事に気づいた。 「貴様ぁ!」 暴れだしたスペインを見下ろしながらの笑みを深くしたイギリスは、一歩後ろに離れると優雅にお辞儀をしてみせた。 「貴殿には、我ら大英帝国建設の礎となっていただこう」 ここで殺したりはしない。もっと痛めつけて、頂点からひきずり下ろしてあげる。と無邪気なまでにのたまう。 「世界の王座は、俺がもらう」 さあ、楽しみながら、王になろうではないか・・・。 港について、船から下りたところで声をかけられる。振り向けば翡翠色の目を持った少年が駆け寄ってきて、ドレークの前で立ち止まった。 「アーサー。来ていたのか」 「スペイン船を襲うかわりに後の生活を保障する」と直接の会談でのたまった豪胆でしたたかな女王が、協力者だと言い表す少年は度々、治安がいいとは呼べない場所に一人でやってくることがあった。 「何度も言うが・・・お前の呼ぶエル・ドラコは異名であって、俺にはフランシス・ドレークという名前があるんだが?」 間髪いれずに可愛くない返答がくる。 だがしかし、海の向こうの変態とやらと同じ名前をしているのは俺のせいではない。 「いつか絶対名前で呼ばせてやるよ」 ならば、この手がいくら血に濡れようとも構わない。 「何事にも、代償は、必要だろう・・・?」 目の前に這い蹲る奴が、誰なのかなんて知らない。 「さあ、精一杯可愛らしく命乞いしてごらん・・・?」 優しく殺してあげるから。 |