飛び出そうとした体を捕らえられ、地面に引きずり倒され、屈強な男共に押さえつけられたスペインの前に立つ人がいた。
 無理な体勢のまま顔をあげれば、見慣れた国がこちらを見下ろしている。困ったような泣きそうな表情に、海賊についての文句を言いに行った時と同じような顔をしていると思い、困惑が深まった。

「ああ・・・誰かと思えば、スペインか。久しぶりだな?」
「イ、イギリス・・・」

 見上げた彼の横には、先ほどまで女王陛下に勲章を与えられていた男が並んでいる。自分の記憶に間違いがなければ、この男は自分を苦しめる海賊どもの頭のはずだ。それが何故、イギリスの傍らにいる?

「海賊のことは本当に申し訳ない。何せ彼らは」

 しゃがみこんだイギリスは、ゆっくりとスペインの頬に手を這わせ、にんまりと笑んだ。先ほどまでの表情など、どこにもない。
 ぞくりと背筋に寒気が走る。なんだ、これは。誰だ、こいつは。

 目の前にいる彼は何をした・・・?

「俺の、いや・・・我らイギリスの、協力者だからな・・・」
「!?」

 そこでようやく、自分が嵌められていた事に気づいた。

「貴様ぁ!」

 暴れだしたスペインを見下ろしながらの笑みを深くしたイギリスは、一歩後ろに離れると優雅にお辞儀をしてみせた。

「貴殿には、我ら大英帝国建設の礎となっていただこう」

 ここで殺したりはしない。もっと痛めつけて、頂点からひきずり下ろしてあげる。と無邪気なまでにのたまう。

「世界の王座は、俺がもらう」

 さあ、楽しみながら、王になろうではないか・・・。


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 海賊への勲章授与を目の前でやられてキレたスペイン。
 この後、挑発に乗ってぼこられます。

***

「エル!」

 港について、船から下りたところで声をかけられる。振り向けば翡翠色の目を持った少年が駆け寄ってきて、ドレークの前で立ち止まった。

「アーサー。来ていたのか」

 「スペイン船を襲うかわりに後の生活を保障する」と直接の会談でのたまった豪胆でしたたかな女王が、協力者だと言い表す少年は度々、治安がいいとは呼べない場所に一人でやってくることがあった。
 身なりのいい上に顔立ちが整った、いうならば一級品の少年が無防備に出歩くことは狼の群れに兎を入れるようなものだからと何度かやめるように注意したが、彼が兎の皮を被った狼よりも性質が悪いものだと知ってからは、何も言わないことにした。

「何度も言うが・・・お前の呼ぶエル・ドラコは異名であって、俺にはフランシス・ドレークという名前があるんだが?」
「海の向こうの変態を思い出すような名前で呼ぶくらいなら即刻改名させてやる」
「・・・・・・」

 間髪いれずに可愛くない返答がくる。
 他の女王に協力する同業者を差し置いて懐かれることは誇らしくもあるのだが、これだけはいただけない。
 初対面で自己紹介をしたときも、見るからに嫌そうな顔を隠そうともしなかったことからして余程嫌いなのだろう。

 だがしかし、海の向こうの変態とやらと同じ名前をしているのは俺のせいではない。

「いつか絶対名前で呼ばせてやるよ」
「はっ・・・精々頑張るんだな」


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 フランシス・ドレーク(異名エル・ドラコ)と国であることを隠しているイギリス。外見年齢は10代半ば。
 イギリスは国民や協力者にはデレが強い・・はず。

***

 強くならねばならない。
 強くあらねばならない。
 弱みを見せればつけ込まれる。
 もう二度と、支配されるのなどご免だ。

 ならば、この手がいくら血に濡れようとも構わない。
 歩む道が紅く塗られていたとしても、立ち止まりなどしない。

「何事にも、代償は、必要だろう・・・?」

 目の前に這い蹲る奴が、誰なのかなんて知らない。
 何を目的で襲ってきたかなんてどうでもいい。
 どれほどの恨みを買っても、何を犠牲にしても、望みを果たそうと決めたのだから。

「さあ、精一杯可愛らしく命乞いしてごらん・・・?」

 優しく殺してあげるから。


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 イギリス独白。