後に彼は言った。言うつもりなんて全くなかった。本当にうっかり口にしただけで、別に他意はなかったんだ。

 けど、それが余計にまずかった。



 なんとなく呟いた言葉に一番に反応したのは隣に座っていた日本だった。

「萌えですね」
「・・・モエ?」

 力強く頷きながら断言した日本に、イギリスは反論するでもなくただ復唱した。

「たとえばアメリカさんなら眼鏡、KY、末っ子精神、我侭、自己中、トラブルメーカー、天然ドS、年下などが挙げられます。他の国に比べて子供時代を知る人が多いことからショタ要素もありますね。
 生意気なところをねじ伏せるもよし、純粋なのを自分好みに染めるもよし、また若さから必死で求めてきてもいいですし、うっかり鬼畜方面に歪んでもいいです。ネコでもタチでもいけます。
 世間は体格が大きいとタチ見解が多いですが、私はあえてネコ側を推奨しますね。
 いえね、以前は米英とか米リトとか米露、米日とかが主流だったんですが、この前のフランスさんの(上司の)「アメリカ大好き」発言から仏米の需要も高まりまして・・・まあ大体は米英か仏英を前提としてるんですが・・・露米もいいかなっておもってるんです。
 あ、甘甘から殺伐、鬼畜までどれでもいけますよ。ただ人体改造や切断はねぇ・・・軽いものならいいんですけど、変に体に傷を付けると私たちという存在としては矛盾が生じますんで・・・まあそれなら監禁ものもおかしいといえばおかしいんですけどね」

 語る。

「フィルターを通せば大変かわいらしいですよ。誘い受け、純真受け・・・Sっぽいところもありますから女王様系もいけるんじゃないでしょうか。あとツンデレっぽいところもありますね。
 攻めを押し倒して翻弄する姿なんてはまってる気がしませんか?」

 語る。語る。

「M(マジ)KYなのかA(あえて)KYなのか・・・まあどちらでもよろしいでしょう。ああ、でも前者はアメリカさん。後者はロシアさんだと捉える方は多いでしょうね。
 えーと、それで、米受けについてなんですが・・・無自覚無邪気系と腹黒策士系があるんですよ。
 愛国心あふれる方々に暗がりに連れ込まれて輪姦されるとか。子供の頃に調教されるショタ話とか。
 世界恐慌時にお詫び代わりの奉仕・・・いえ、むしろフランスさんに押し倒されて、逆に上にのってこれでちゃらだよ☆なんてのもいいですね」

 語る。語る。語る。

 日本は止まらない。
 忘れていたがここは国際会議場で、さらに言えば議論の真っ最中だ。
 まあイギリスの爆弾発言で冷却され、日本の語りで砕かれているから構うことはないのかもしれない。・・・当事者たちは。

 円卓の下では暗雲を背負ったアメリカが、聞きたくないとばかりに耳を覆ってうずくまっている。
 隣の席のフランスが顔を引きつらせながら慰めるようにその肩を叩いた。
 

「ロシアさんといえばヤンデレですね。もっぱらタチでして、ネコとしての需要はあまりないんです。すいません」
「いや、謝られても・・・」
「お相手となるのは大抵バルト三国の方たちと中国さん、あとフランスさんに冬将軍なんてのもあります。それと先ほど言ったアメリカさん。
 あ、ヤンデレの説明をしていませんでしたね。全てのヤンデレがこうだというものはないのですが、しいていいますと真っ暗なんです。曲がった独占欲とでもいいましょうか。愛情の表現方法としては、鬼畜・陵辱・監禁・強制奉仕・調教。バットエンドが多くって・・・しかもロシアさん視点ですと純愛風味なのに受け側の視点ですと悲恋風味になるという感じなんです。
 ネコとして受け入れられにくい理由はこの辺にあるようで、あとは下で喘いでいる姿が思い浮かべにくいということもあるんでしょう」

 思い浮かべなくていいよ・・・。とロシアが言ったが日本には届かない。ぬいぐるみのように抱きこまれたラトビアが幽体離脱しそうな顔をしている。

「でもこれごときでひるんでいては日本として情けないと思っているんです。
 というわけで、イギリスさん」
「はい」

 居住まいを正した日本につられるようにイギリスもイスに座りなおす。

「ロシアさんのどこをどう見れば可愛いとおっしゃることができるのか、是非ともご教授いただきたいのですがっ・・・?」





 発端は会議の真っ最中に始まった喧嘩だった。

 いつものフランスとイギリスの喧嘩ではなく、ロシアとアメリカの口論(と呼ぶには薄ら寒い舌戦だ)だったため誰も止めることが出来ず傍観に徹していたのだ。
 それはイギリスと日本も例外でなかった。

 そのとき手持ち無沙汰に頬杖をついていたイギリスが呟いた。

「(大型の猛獣が)じゃれあってるみたいで和むよな・・・」

 後に至上最悪の終了を迎えた会議だったと、数百年後も語り草になることになった爆弾はこうして投下されたのだった。



「・・・可愛くないのか?」
「・・・・・・どこがでしょう」

 イギリス、無言で何かを取り出す。

「・・・イギリスさん」

 日本、渡された何か――写真を片手に震えている。

「譲ってください」
「え、いや、えっと・・・」
「今なら寝ぼけ眼で壁に激突したアメリカさんの衝撃映像と、この前カナダさんが来たときにとったツーショット写真をセットでお贈りします!」
「よし。おまけしてやろう」

 日本は犬と戯れるロシアの写真(アングル別に3種)を手に入れた(テロップ風味)。





 えー・・・あー・・・なんと言ったらいいのやら。
 日の米、露の語りは私の主観・・・というかこうだったらおもしろいな。な代物です。