国際会議場のために集まった国たちが宿泊するホテルには大抵の場合、多種の飲食店が入っている。
 その理由のひとつは多種多様な国たちの舌に合う食事を提供するため。もうひとつは食事のために街を出歩いた国が問題に巻き込まれるのを防ぐためだ。
 流石に娯楽施設はないが、神経をすり減らす会議の後に遊びに出る国はそんなにいない。
 ・・・かつてストレスを溜めた某国がたまたま目についたグロサリーショップの食材を店買いし、ホテルの厨房を占拠して一心不乱に調理するという騒動があったりしたがそんなのは例外中の例外だ。

 そして今回の宿泊するホテルには、赤提灯と呼ばれる店があった。
 赤提灯――日本の人ならその単語をそのまま受け止めればいい。ようするに居酒屋である。
 出張で来た日本商社マンの宴会によく使われているという店はいくつかの個室も有しており、その一室で2人は顔を突き合わせていた。

「これとかどうです?アメリカさんとイベントに行った時の写真なんですが」
「コスプレってやつか。軍服っぽいけど、お前のところの漫画のキャラか?」
「ええ。大佐か少尉かで迷いましたが、髪と目の色で少尉にしました。ここに居るのが私で、大佐の格好をしてます」
「あ、ほんとだ。こっちのは?」
「えーと・・・アメリカさんが特殊メイク姿でやってきた後の写真ですね。こちらがメイクした状態の写真です」
「・・・ゾンビ?」
「ゾンビです。本人は大変気に入ってらっしゃいました」
「相変わらず変な感性してるな」
「ええ。幽霊は苦手なのに不思議なものです」
「そうだな。ホラー映画観たり怖い本読んだりしては怯えてるしな」
「怖いもの見たさってやつでしょうか。・・・怯えた表情は大変愛らしいですよね」
「全くだ。甘やかさずにはいられん。ロシアも似たところあるしなー・・・ほら、これとか」
「ほう、大きなぬいぐるみを抱え込んだロシアさんですか」
「雷の音に驚いて抱きついてたんだ。可愛いだろ」
「大いに同意します。おや、こちらは?この服はパジャマとお見受けしますが?」
「うちに泊まったときのだな。まだ寝ぼけてて、この後転んだんだ。こっちがそのときの写真」
「っ・・・て、照れてますね!」
「ああ、しかも額を打ったせいで涙目なんだ!」

 歓喜のあまり日本まで涙目になっている。
 期待以上の反応に気をよくしたイギリスはさらなる写真(と書いて爆弾と読む)を取り出した。

「イギリスさん、それはっ!!?」
「偶然に偶然が重なって実現されたアメリカとロシアの昼寝写真だ!」

 正しくは転寝をしていたイギリスの両隣で二国が寝たあと、イギリスだけが起きたから出来上がった光景なのだが、感動で膝立ちになった日本にもはしゃぐイギリスにも些事以下の理由だった。

「〜〜〜〜もう、最高ですね!この微妙な距離感とか、なんだか魘されてそうな表情とか、対照的な寝姿とか!!」

 そこは絶賛する部分なのか?と思われるような感想を述べた日本に、嬉々とした表情のイギリスがさらに身を乗り出す。

「だろだろ!?この後同時に起きてにらみ合ったあと、舌戦繰り広げた挙句に拳銃でロシアンルーレット始めやがったからな。もし死なれたら掃除が大変だから途中で止めたけど」
「是非見たかったです」
「そうか?じゃあビデオカメラ買っとくか・・・」
「あ、それならうちのを差し上げますよ。使わなくなったのがいくつかあるんで・・・」
「いいのか?日本製品は質がいいからな、有難い」
「いえいえ。あ、こんな写真もあるんですよ」
「ん?お、これは・・・」

 どこに盛り上がるポイントがあるのか理解しがたい2人の会話は、店が閉店時間になるまで延々と続けられたらしい。








 常人は頭を捻るような部分を絶賛して盛り上がる英と日。
 肖像権は?何時の間にそんな写真撮ったの?と言いたくてもいえない露と米。
 いつ的にされるかと戦々恐々な他の関係者一同。
 そのうちEU・アジアの写真もトレード対象になるはず。

 日は技術とおたく魂、英は妖精の助力で被写体に気づかれないように撮影してるんだと思います。