南の大国ローマ帝国の第一皇女であるイタリアが実は男だというのは王室の極秘事項である。その裏には王家の血で汚れた事情が関わっているという。
 そんな彼と魔界の最高権力者である魔王神聖ローマが文通をしているというのはもっと表ざたに出来ない超極秘事項である。幼い頃の甘酸っぱい初恋がそのまま続いて未だに熟成されていないという形容しがたい関係は、本人たちの周囲にはひたすら温かい目を向けられているが、他者には大国と魔界が繋がっているといらぬ勘繰りをされかねないのだ。

 どちらかが一般人であればそう波風立たずにすんだろうに――そこに男同士だというツッコミは存在しない。可愛いは正義なのだ。――人生とは上手くいかないものだ。

 

 そのイタリアが一時的に勇者のパーティに加わったという知らせを受け取った魔王陛下は、日々窓の外を見ては黄昏ていらっしゃった。

「イタリア・・・」
「兄上ー。しっかりしろー」
「イタリア、お前は今どうしているんだ」
「写真に向かって話しかけても返事はないぞ」
「心配だ。何せお前はヘタレだし泣き虫だし空腹に耐えられないし」
「あんた、割とイタちゃんのこと冷静に見てるよな」
「人当たりはいいから酷いようにはされていないだろうが・・・。まさか虐められていたりしないだろうな」
「いや、あの子は意外と強かだから大丈夫だろ」
「ああああああああ。お腹はすかせていないか。怪我してないか。泣いてないか」
「・・・・・・」
「いたりあぁぁぁ」

 とうとう泣き出した(涙は出てないが言ってることは泣き言以外の何物でもない)神聖ローマに根負けしたプロイセンは荒々しい動作で立ち上がる。

 いい加減、鬱陶しい。

「分かった。分かりましたよ、見に連れて行けばいいんだろ!おら、とっとと上着着ろ!!」

 

 魔王、泣き真似をする。


「あれが勇者か・・・」
「そうだ。名前はアメリカ。イギリスの養い子の1人だ」
「イギリスの縁者?それはまた大物を釣ったものだな」
「勇者認定を受けた経緯は口外禁止らしいけどな。何があったんだか」
「今宿から出て来たのは誰だ?イタリアと親しいようだが・・・」
「・・・・・・」
「どうかしたのか?」
「・・・ヴェスト」
「ヴェスト?お前の弟の?」
「あ、ああ。今はドイツだけどな。・・・え、マジで勇者パーティの1人?」
「面白いな。どういう理由があったのか非常に興味深い」
「うーん・・・ふと立ち寄った旅先で勇者が困っているのを手助けしたらそのままパーティメンバーにされて、真面目で面倒見がいいせいで抜けることもましてや見捨てることもできずに付き合ってるうちに意気投合したとかじゃねぇかな」
「・・・・・・見てきたかのような予想だな」
「いや、適当に言っただけだ」