殺して戮して破して壊して消して滅して・・・
 それが自分というもの。
 簡単だろう?


 目覚めて最初に見たものは鋭い銀色。
 自我を持って最初に感じたのは生温かい赤色。

 立つよりも先に剣を握り、喋るよりも早く生命を屠った。

 悪魔の所業?

 それはお前たちの見方だろう?

 だって俺は天使だもの。


 天使は世界によって生み出される。
 それぞれが役目とそれを遂行するための力を持って生まれてくる。
 そして誰に言われることなく自分の生まれた理由を知っている。

 俺の役目は世界のバランスを崩す存在を殺戮し破壊し消滅させること。

 この役目に名をつけるならば『命に終焉を齎す死天使』となるのだと、あるとき出会った同胞が言った。

 ある者は俺を死神と恐れ、ある者は俺を悪魔と蔑み、ある者は俺を救世主と崇めた。

 折り重なる屍の上に立ち、倒れ付す亡骸を踏み歩き、怨嗟と畏怖に塗れて生きていた。

 疑問なんて持たない。
 生きる者の大半が日々の暮らしに理由を求めぬように、こうすることが当たり前のこと。

 悲哀?懺悔?憤怒?
 感じないわけではない。
 ただ、それが辛いと思う限界がないだけで。

 戦うことは楽しい。
 今生きるモノは何時か死ぬのだから、今死んでも仕方ない。
 許されなくても構わない。地獄も天国もこの世にはない。

 神様のお人形?

 別にそれでも構わないさ。
 だって、何も俺を変えることなんて出来ないのだから。

 

「お前、俺と来い」

 生まれたときから完結された天使の生に唐突に割り込んできた彼は、その傲慢さと強引さでもって俺の手を引いた。

「俺は神聖ローマ。二代目の魔王にして魔界を統治する者」

 俺の膝までしかない幼い子供の容姿。しかしそのか弱い外見に反し、獰猛な獣のような目と周囲を平伏させんするかのような威圧感を纏う王者。
 なのに迷子の子供のような印象を受けたのはどうしてだったのだろう。

「死天使。神なぞ捨てて、俺のものになれ」

 後から考えてみると不思議なことだが、そのときの俺は剣を鞘から抜き放つことすら考えつかなかった。
 ただそれが当然のことだと言うように、跪いて首を垂れた。

 

  魔王、はじめてのおつかい。

 

 どうして彼の言葉を聞き入れる気になったのかは今でも分からない。  運命?  そんなものにこの理由を名づけさせたくはねぇな。
 だって、「運命=神の決めたこと」だというのなら、そこに俺の意志なんて無いも同然じゃねぇか。
「兄上」
「なんだ、マリア」
「選んでくださってありがとうございます」
「・・・ああ。いや、こちらこそ、感謝している」