メモ帳に書かれた筆跡は紛れもなく魔王である神聖ローマのもの。 魔王の執務室で書置きを手に肩を震わせるプロイセンの姿を見た側近たちは速やかに耳を塞いだ。 「書置きはこうやって使うもんじゃねー!!!」
「・・・以上です」 魔王の片腕からの伝書を読み上げたオーストリアは長々と言葉を紡いだからだけではない疲れからのため息を吐いた。
時候の挨拶から始まり、読み手の近況を尋ね気遣う文面が綴られ、自身のことに及んでから手紙を出した用件に至り、最後は時間を取らせてしまった非礼への侘びと結びの挨拶で締めくくられていた。 彼は精神的余裕がなくなるほどに礼儀正しくなっていく大変捻くれた性質の持ち主なのだ。 つまり、これは相当きている。
「・・・オーストリア」 馬鹿丁寧かつ事細かくに回りくどく書き上げられた”用件”は簡潔に書けば1行で済むようなものなのに、その長さは便箋10枚に及んでいた。手紙を盗み見た者に内容を容易に悟らせないための常套手段だが、少しでも現実を見たくない逃避だと感じるのは何故だろうか。
ああ、聞きたくない。聞きたくないけど聞かないと。 「魔王が家出したので行方を知らないかということです・・・・・・」
オーストリアが言い終わると同時に頭を抱え込んで動かなくなったロマーノに気遣いの篭もった視線が向けられる。
駆け落ちか。駆け落ちなのか。いや、まさか。 「今すぐヴェネチアーノの行方を捜させろ!秘密裏に、しかし迅速に!マフィンもバッカニアも全勢力をつぎ込め。保護まではいかなくていい、とにかく今居る場所を特定しろー!!」
魔王、家出する。
「兄上に何かあったら、世界を滅ぼして俺も死にます」
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