あれは俺が気まぐれで南の方に出かけたときだった。ふと目に入って立ち入った森はこの周囲にあるものと違って太陽が惜しみなく降り注ぎ、瑞々しい木々が生い茂っていた。 花畑に寝転がると甘くいい匂いがした。そのまましばらくぼんやりしていた俺はいつの間にかうたた寝をしてしまっていた。
どれくらい眠っていたかは分からない。
俺が目を覚ますと、1人の少女が俺を見下ろしてた。いや、顔を覗き込んでいたというほうが正しいか。
・・・周りの景色が色あせて見えるだなんて表現を、現実で使うことになるとは思いもしなかったな。
「あ、起きたー」
驚愕に声を出せないままに上半身を起こした俺の隣に座った彼女は小鳥が囀るような声で話しかけてきた。
それからしばらく言葉を交わした。 ああ、それにしても少し思い出してみただけでも彼女はまさに天使と呼ぶに相応しい子だったと断言できる。 あんな生き物がこの世界に存在すること自体が奇跡だな。 日暮れ前には戻らなくてはならないと言う彼女を森の外まで送り、また会う約束をして別れた。 去って行く彼女の後姿を見ながら、俺は今までに無い胸の高鳴りを感じていた。 これはまさに・・・
魔王、恋に落ちる。
「兄上。その話、28回目だからな。そろそろ大人しく寝ろや」 |