イギリスは身内に甘い。そして弱い。

 かつて小国だったロシアを故意にせよ過失にせよ泣かせて矢射られた国や、開拓地だったアメリカにちょっかいをだして完膚なきまでにいびられた国には骨身に染みていることである。
 現代においては、見事に大国に成長してしまった2国の迷惑とか害だとかを被っても「仕方ないなぁ」で終わらせる辺りにその片鱗が伺える。

 あのでかくて強暴で腹黒で傍迷惑で精神子供なロシアとアメリカを、なんのからかいも含みもなく「可愛い」と言ってのけることができるのは、あばたもえくぼとか何かのフィルターとかのせいだろうと認識して間違いあるまい。
 恥ずかしがる様子も気負った様子もなく言えるところはむしろ豪胆と評してもいいだろう。

 しかし”だからイギリスは決してロシアとアメリカには勝てない”とは言えない辺りが海賊紳士を体現しているところだ。

 イギリスからロシアとアメリカに向けられる愛情は深くて際限がない。
 そのせいで分かりにくいのだが、ロシアとアメリカのほうこそがイギリスに決して勝てない。何せあれはブラコンでマザコファザコンだ。百年単位の筋金入りだから、いくら強くなろうともでかくなろうとも頭があがることは決してない。

 何なら俺の体を賭けてもいい。
 一時期、中国も交えて同盟を組んでいたときにしみじみと再認識したんだから。
 野放しにしているように見えて、ちゃんと手綱を握っている。

 イギリスは変な幻覚が見えている様子はあるものの、リアリストでシビアで理論派だ。
 こいつがちゃんとしているうちはあの2国が変な方向に暴走することはないだろう。

 そう・・・イギリスが暴走しなければ。
 逆に言えば――そして俺の最も言いたい事は――イギリスがキレた場合、誰も止められないということだ。







 えー・・・現在世界会議真っ最中。議論はロシアとアメリカの喧嘩によって停滞中。かれこれ2時間経ってます。

 隣に座るイギリスからゆっくりと洩れ出てきている殺気が怖いです。

 今はロシアとアメリカがぶつけ合っている殺気に紛れて分からないだろうけど、お兄さんは至近距離でビシバシ感じているので大っ変痛いです。

 体調不良か寝不足か機嫌が悪いのか・・・。流石にこの状況じゃお兄さんにも分かりません

 てか何で俺敬語?


 死んだ魚の目をしたフランスが1人ツッコミなんてことをやっている横では、イギリスが動きを見せていた。
 議長国のスペインを見、日程や議題が書かれた資料を一瞥し、終わりを見せない2国に視線を戻すと、あからさまな溜め息をついた。

 ぴたりと2国の動きも声も止まり、国たちの視線がイギリスに移る。

 そこでようやくフランス以外の国もイギリスの背後に渦巻く負のオーラに気づく。
 ついでに隣席のフランスの顔色が土色気なのにも気づいた。あらお気の毒という表情を日本がしていたのには誰も気づかなかった。

「ヴァーニャ。アルフ」

 昔は頻繁に使っていた愛称がイギリスの口から零れ、その対象となる2人が身を強張らせる。それと同時に会議場の空気も凍った。

 刺々しい声と口調に全く釣り合わない穏やかな笑みを浮かべたイギリスから、告げられたのはたった一言。

「黙れ」




 ごめんなさい。と何故か皆が謝った。