「昔はよかった・・・」

 懐古はイギリスの癖だ。
 アメリカは嫌がることの多い性質だが、長い歴史をもつ国には別に珍しいことではない。ただ、イギリスは特に多いというだけで。

 その言葉をスペインが気にした理由は、ぼやいているイギリスの視線の先にあるのが未だに弟として気にかけているアメリカではなく、スペインにとっても腐れ縁と呼べる国――フランスであったからだ。
 最も、ここはEU加盟国の会議場だから、欧羅巴以外の国がいるはずもないのだが。

 じっと見つめている視線に気づかないフランスは、イタリアにちょっかいを出してドイツに注意を受けていた。
 休憩中だからどれだけ騒ごうとも誰も止めない。というか、今更フランスがセクハラしようと性犯罪一歩手前に及ぼうとも止めようとする国は少ない。

「小さい頃はよかったんだけどなぁ・・・」

 小さい頃といえば、イギリス・フランスともに今と名が違っていた頃か。
 思わず昔のフランス・・・否、フランク思い出す。癖のある金髪、白い肌、大きな青い目。レースや刺繍の入った服に、羽飾りのついた大きな帽子をかぶった少女のような容姿の美少年。

「・・・せやなぁ」

 憧憬の記憶に、うっかり同意の言葉を発してしまい、慌てて口をおさえる。そーっとイギリスを伺うと、同意の言葉への驚きはあったようだが、独り言を聞かれていたことへの非難はないのか辛らつな言葉が出てくることはなかった。
 かわりに無言で隣の席を示して、座るのを待つこともなく話し始める。

「今より大人しかったな」
「エロさもそんなになかったしなぁ・・・純粋やったよな、身体的には」
「女好きなところはあったが、子供だったからな・・・口説き文句を言ってもむしろ可愛がられたよな」
「というか多少やりすぎても外見で許されている部分があった気ぃせん?」
「可憐とか優美とか言われてたぞ。男女問わずに」
「んで、悪乗りしたフランスの上司が女物を着せたりしとったな」
「何回となくあったな。恐ろしいくらい違和感がなかった」

 ある日突然会ったかわいらしい少女が、昔なじみの友人だと知ったときの衝撃はかなりのものだった。

「・・・いつからあんな風になったんだ?」
「その言い方はおかしいでー。元からあんなんや」
「・・・・・・あのフランクがどういう育ち方をすればあんな髭面変態自発的淫猥陳列機な多方面乱発型セクハラ親父になるんだ?」
「おお!流石海賊紳士な物言いやな」

 パチパチとスペインが拍手して絶賛した。イギリスのフランスを罵る為の語彙は多い。

「ほんま、あの頃はよかったな」
「ああ」

 二人の目を向けた先で、ハンガリーのフライパンがフランスに飛んだ。