「ロシアが謎のダイブを敢行して骨折したらしいぞ・・・」
「何でお前ここにいんだよ。田舎帰れよワイン野郎が」
「あーお前の刺繍邪魔しに」




「はいカット!」

 監督の声を機に、張り詰めていた緊張の糸が緩められる。
 次のシーンのために機材を移動させるスタッフたちの邪魔にならないようにスタジオの端に移動しようとしたフランシスは、刺繍布と針を手にしたまま動かないアーサーに気づいた。
 先ほどの体勢のまま、ぴくりとも動いていない。

「・・・・・・・・・」
「アーサー?」

 声をかけると涙目で見上げられた。
 かわいいなー。中身は兄貴たちに(特に縁の深い長男に)似てなくてよかったな。

 兄たちに知られたら夜道で襲われそうなことを考えていると、アーサーは弱弱しい声でフランシスの名を呼んだ。

「ふらんしすさん・・・」
「どうした?」
「針、刺さりました」

 軽く持ち上げられて見せられた指からはだらだらと血が流れ出ている。

「・・・誰か救急箱持って来い」