どこに住んでいるのかと聞かれて答えると、驚いた顔をして曖昧な相槌をうつ人は地元の子。
 入学して半月ほどだが、それが外れたことはない。
 聞けば、アーサーも同じだと言う。ただ違うのは、その後に言葉が続くこと。「え?あの幽霊屋敷に?」と。


 学校へ徒歩で行ける距離にあり、元は貴族のような人の屋敷だったと言うその家は、歴史の重みを感じさせる風格のあるつくりで当然のように広い。もっとも、二人暮らしなのだから部屋など3つほどあれば事足りる。私たちが気に入ったのはレトロな雰囲気の内装と広い庭だ。
 中学卒業とほぼ同時に引っ越して整備した庭はまだ不完全だが、学校の園芸部でもらった花も植えているから、来年までには満足のいく出来栄えになるだろう。

 アーサーも園芸部に入ればよかったのに・・・

 部活動は男女混合であるものが多く、学校の隣にある園芸部の菜園も共同で使っている。学校側の任命で決まると言う生徒会への推薦をにこやかに丁重に断ったアイリスと違って、アーサーは部活動に入らずに生徒会参加を了承したらしい。
 曰く「何かあったときに権力を行使できる立場にいたほうが落ち着く」らしい。中学生時代に荒れた後遺症はまだ抜けきっていないようだ。その点についてはアイリスも同じで、だから残念であっても説得しようとは思わなかった。

 実家から移したお気に入りの薔薇が順調に育っているのを見ていたアイリスは、風に運ばれてきた紅茶の匂いに顔をあげた。するとちょうどこちらを向いたアーサーと目が合う。
 今日のお茶当番はアーサーだ。一階のテラスに出されたテーブルの上にはすでにスコーンとマフィンが用意されている。
 園芸用の軍手を脱いで手を洗って戻ってくると、紅茶をカップに注いでいるところだった。

「今日はダージリン?」
「ああ。ファーストフラッシュだ」

 春摘みの葉は香りが強く、ダージリンのマスカットフレーバーがよく分かる。
 一口飲んで、そういえばとアーサーが言い出した。

「また言われた」
「・・・やっぱりね」

 学生の2人には広すぎる不釣合いな家。庭は欲しかったけど、アパートでも仕方ないと思っていたところへ転がり込んだ訳あり物件。怪奇現象が起こると評判の、買い手がつかない幽霊屋敷。
 そしてそれは事実だ。
 入居した当初はすすり泣きがするは物が動くは足音がするは閉めてた窓は開いてるし謎の物体が飛来するし写真をとると必ず無いものが写るしラジオをつけると奇怪な声が混じるしで、常人ならすぐにでも出て行きたくなるような環境が提供された。

「別に害はないのに・・・」
「全くだ。むしろ助かっている」

 常人なら、耐えられない。だが幼い頃から『見える』立場にいた人間は常人の部類に入りはしない。
 幸か不幸か、オカルト方面への免疫が強く恐怖を感じることの無い2人は、今ではすっかり慣れてしまっている。それは怪奇現象の主も同じらしく、姿を見せることはないが新しい住人を受け入れることにしたらしい。

「雨の日に洗濯物をとりこんでいてくれるし」
「寝坊すると起こしてくれるし」
「探し物がいつの間にか出されてたり」
「2人揃って遅くなったときに家に灯りがついているとなんか安心するしな」
「本当ね」

 テーブルの上で、1つ多いカップの湯気が風も無く揺れた。



双子と幽霊の奇妙な共同生活。