食の都として知られるパリは、同時に音楽の盛んな地でもある。

 地元の人や観光客の行きかう街道沿いでは、楽器を手にした演奏家や手ぶらの喉自慢が思い思いの音を披露している。

 あちこちから聞こえる音色を体に受けながら歩いていたシルヴァンはふと響いてきた音に足をとめた。
 最初に聞こえてきたのは太く広いコントラバスの音。それを包むような柔らかいホルンの音色が混じり、やがて低く染み渡るような声で歌が乗せられる。

 君がために生き。君がために死に。それでも君は泣き続けるのか。
 立ち止まれないから歩き続けたわけではない。君が居るから進むことができたんだ。

 聞きなれない、おそらくオリジナルであろう歌詞は物悲しく響き、通行人たちの足を止める。
 シルヴァンも例外でなく、音に引き寄せられるように人垣へ寄っていった。

 花を贈ろう。それを僕と思ってくれればいい。いつか枯れてなくなって、その頃には別の人の傍らで微笑んでいて欲しい。
 君の笑顔が何よりもの祝福だから、僕に墓碑はいらない。

 椅子に座ったコントラバス奏者と端然として立つホルン奏者に挟まれるように両手を広げて歌う青年。

 青く高い空に君の幸福を願うから、それが僕の幸福だとどうか信じて。

 曲が終わって歌っていた青年が深々とお辞儀をすると、その場が沈黙に包まれる。一拍おいて拍手が起こり聴衆からコインが投げ込まれた。
 同じようにコインを投げ込んだシルヴァンは聴衆が散っていくのを待って、楽器を片付けている3人組に声をかける。

「失礼。少しいいですかな?」
「あ、ええと・・・」

 歌い手の青年は呼びかけに応えると、戸惑ったように他の2人を振り返った。先に気づいたのはホルン奏者のほうで、楽器の入れ物を地面に置くと苦笑いを浮かべながら走りよってきた。

「何でしょうか?ムッシュ。彼はフランス語を勉強中なので代わりに聞きますよ」
「いや、驚かせてしまったようで申し訳ない。・・・先ほどまで聞かせていただいた音楽の素晴らしさに感銘を受けましてな」
「それはどうも」
「地元民・・・ではないですよね?」

 言葉が通じないことや、見慣れた顔でないことから予想して尋ねると、彼は小さく頷いた。

「旅行中でしてね。今朝フランスに着いたところです」
「それは・・・音楽会に出るためで?」
「音楽会?」

 驚いた顔をした青年にポケットから出したカードを渡す。名刺大のカードには金と黒の字で第26回音楽会開催のお知らせと書かれていた。

「地元の富豪たちが共同でやっているものでしてね・・・。まあ、私もその主催者の一人なんですが。早い話がどれだけ才能のある音楽家を連れてこれるかの勝負ですよ」
「へえ・・・そんなものが」

 あるんですか。と続けようとした声はカードを返そうとした手を強くつかまれることで阻まれる。

「・・・あの?」
「是非!うちに来て頂けせんか!?」
「は、はい!?」
「食事も寝床も用意しますから!代わりに演奏会に出ていただけませんか!?」

 鬼気迫る表情で叫ぶシルヴァンに、離れたところに居た連れ2人もただ事ではないと思ったようで、手をとられたまま心持ち後ずさっている青年の横に並ぶように近づいてきた。

「どうしたんですか、アーサーさん」
「な、何がなんだか俺にも・・・」
「どうかっ今度こそあのワイン樽にほえ面をー!」
「とりあえずその手を放してもらおうか」

 コントラバス奏者がシルヴァンの腕を掴んで手を放させる。しかし今度は放された手を、コントラバス奏者の肩に伸ばした。

「お礼はしますから!あの焦げ付いた猪をぎゃふんと言わせたいんです!」
「・・・放せ」

 腹部への圧迫感と痛みを感じたシルヴァンは、そのまま意識を暗転させた。

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 忍耐をなくしたスイスによって一撃を与えられた男を人通りの少ないところまで移動させた。
 目覚めるなり再び掴みかからんばかりの男を宥めて聞いたところによると(英語が話せるということで会話は英語で行われた)、名前をシルヴァン・エギーといって、貿易会社を経営しており、例の音楽会で連続2位の記録を更新中なのだという。

「あのこんがり焼けた太っ腹のワインマニアが会心の笑みを浮かべるのが悔しくて悔しくて・・・」

 毎回彼に勝つと言う人物は同じく貿易会社を経営しているライバルで、とんでもなく仲が悪いと言うことがこの数分でよく分かった。一度も本名を出していないのがいい証拠だ。
 一通り話を聞き終わると、安請け合いできる立場じゃないからと断りを入れようとしたイギリスを遮って日本が進み出た。

「まあ、そういうことならお受けしますよ」
「菊!?」
「困っている人を見捨てては日本男児の名折れです」

 勇ましく拳を握った日本は止めようとするイギリスと眉をひそめるスイスを尻目に、うなだれるシルヴァンの手をそっと握った。

「シルヴァンさん。私たちが一矢報いてみせましょう!・・・ですから元気を出してくださいな」
「本田さんっ・・・!」

 なんかきらきらしたものが発されて、たまたまそれを見た通行人がぎょっとした表情を見せた後にそそくさと立ち去っていく。

 しかしイギリスとスイスがその光景を放置しながら傍観しているのは、長年の付き合いで日本のバックからどす黒いものが流れていると分かったからだ。

 見返りに何を要求する気だ、日本・・・!!?

 止めるつもりはない。むしろ強くなったなと賞賛してやるべきなのかもしれない。
 だがしかし数歩後ずさることぐらいは仕方ないと思ってもらおう。


 その後、音楽会で優勝を得たことが地元新聞に載ってしまい、慌てて街を後にする3人の姿があったという。








 日本は貿易会社にアッシー君を手に入れた。機動力が10上がった。

 まあ、人脈が広がったわけです。お金とかいらないしね・・・(国家予算が小遣いだと思ってます)

 うーん・・・楽器を弾く3人からどうしてこの流れに成ったのやら・・・。
 最近国連メンバーが出オチになってるんで、3人だけが出る話にしてみようと思ったものの、なんかまとまりが悪い。
 楽器弾いてるのは金がないとかではなく茶目っ気みたいなものです。

 スイスがコントラバスなのは前回のイタリア話からの流れ。笛も似合う気がします。歌はあんまり歌わなそう。
 イギリスはバイオリンとかも考えたけど、イギリス製の楽器で検索したらホルンがでてきて、音色に惚れて決定。
 日本は・・・三味線が似合うと思います。それと琵琶。他はあんまりイメージ湧かなかったんで歌手に。
 歌ってるのはオリジナルです。イメージは戦争と別れ。