「イギリス!俺、ヒーローになってくるんだぞ!」
「はあ?」

 いつものように先触れもなく家にやってきたアメリカは、庭で妖精を相手に茶会をしていたイギリスの姿を見つけるなり声高らかに宣言した
 さわやかな笑顔を浮かべる彼を見る育ての親の目は『また変なこと言い出したぞ、この馬鹿』と言ってたりするが、自分に都合が悪い空気を読まないことに定評のあるアメリカは華麗にスルーした。

「これを見てくれよ!」
「なんだ?・・・皇室の通達書か」

 特殊な紋様で縁取られた上質の羊皮紙に、赤のインクで掲げられた表題と白い文字で記された文章、最後に緑のスタンプで押された王印。皇室の、それも最高統治者である皇帝その人だけが使うことを許された手法で作られた通達書――通称・皇式通達書の内容は王命と同等の効力を持つ。
 つまりそれだけ重要性と確実性を持つのだ。

『勇者募集中。
 腕に自信のある、正義感溢れる冒険者諸君!世界のヒーローになってみないか?
 我ぞと思う奴は城に来い。
                              ローマ帝国皇帝ロマーノ 』

 ・・・例え、その内容がなんともアレだったとしてもだ。

 いや、やっぱり王命だとしてもこれはどうなんだろう。

「・・・詐欺じゃないのか?」
「そんなことないぞ!ギルドの依頼掲示板にあったんだから!」
「・・・・・・」

 ギルドは傭兵や冒険家に仕事を融通する、依頼者と受注者の仲立ちのための機関だ。
 その多くは酒場などの人が集まって騒げる場所に事務所を構えている。
 つまりこの皇式通達書は酒場の掲示板に貼りだされていたのだ。なんというか、ありがたみが凄く薄い。
 大丈夫か、この国。

 てか、この馬鹿は王の依頼だからとか内容がどうとかじゃなく、ヒーローという字に釣られたんだろう。

「というわけで、これから城に行くから弾が欲しいんだぞ。新作のも!」
「あーはいはい。ある奴全部持ってけよ」

 それが本題か。

 魔法が(優しい言い方をすれば)不得手なアメリカは自然と物理攻撃に特化するようになった。
 そんな彼が武器に選んだのが銃だ。
 そこからさらに改造を重ねて、魔法をかけた弾を本体に刻んだ呪に通すことで発動させて撃ち込むことができるようになっている。
 とはいっても、弾は自作できずにこうやってイギリス頼みなわけだが。

 妖精に家から持ってきてくれるように頼めば、弾を詰め込んだ箱を持ってきてくれる。
 受け取って上着のポケットに詰め込んだアメリカは満足そうな笑みを浮かべ、数瞬の後に引きつらせた。

「なあ、アメリカ」
「な、なんだいイギリス・・・」
「御代は?」
「は・・・いつもみたいにツケといてくれよ!」
「ああ?いつ帰ってくるか分からねぇ奴がツケなんてできるわけないだろ。こちとら慈善事業じゃないんでね。それにその新作の弾、作るのすっげぇ大変だったんだぞ」

 黒い。笑顔がすっごく黒い。

 払わずに逃げるという手が浮かんだが、ヒーローはそんなことはしてはダメだという思いが彼を留めた。単純に怖かったんじゃないかという追求は聞かないんだぞ!

「気をつけて行って来いよ。あ、城下町でアイテム系の店を開いてる兄弟のカナダによろしくな」
「なんでそんなに説明口調なんだい・・・」
「読者への配慮だ」

 薄くなった財布を持ってアメリカは旅立っていった。


まずは何より宝箱

 ううう、酷いんだぞイギリス・・・。
 まずお金を稼がないといけないじゃないか。