天使なんてものは必ずしも純真無垢で清廉なもんじゃない。
そもそも神の聖なる使いだなんて定義、宗教家って言う職業の人間が勝手に作ったもんだしな。
え、そんな偉そうなことを言う俺は誰かって?
話題の的の天使様だよ。まあ、元が付くかなー。
堕天使?
まあ、そうだな。あの方の敵に名乗るときはそう告げるな。
でもな、さっきも言ったように人間が考える天使ってのは実際と大分違うんだ。
まず、人が言う神なんてものはいない。
人が神として崇めてるのは奴らが勝手に作り出した偶像だ。
神話で語られる神の多くは、ちょっと能力が優れた精霊とか天使とか悪魔とかだ。
おいおい、そんなに嫌そうな顔をするなよ。
神様がいないわけじゃないんだぜ?
矛盾してる?
まあ、最後まで聞けって。
世界を創り、数多の生命を生み出した存在を神様とするのは正解だ。
だけど、神様は人の暮らしを見守っていたり、天災という名の神罰を下したりはしない。
神様に意思なんてものはないのさ。
あるのは、この世界を保とうとする意志のみ。そう、神様に姿なんてない。世界そのものが神様だと言えるな。
光と闇、善と悪、生と死、平和と戦争。
表裏一体のこれらをバランスよく保つのが神様の意志で、そのために働く天使を生み出すのが神様の役目だ。
やっぱり天使は神の使いなんじゃないかって思っただろ。
それは正解。
じゃあ、最初に違うって言ったのは何かって?
聖なるって部分さ。
天使は必ずしも善じゃない。
そもそも正義なんて一方方向からみたもんであって、他方からみたら悪って場合が多いんだ。
なのにどうやって善を判断するんだ? 無理だろ?
は? 神の意志こそが善だって?
・・・ああ、そういう定義に乗っ取れば、天使は聖なる使いかもな。
罪深い人々を虐殺し、広大な大地を消滅させ、悪魔に助力したとしても、それが神様の意志ならば善って言えるならな。
ははっ。やっぱり無理か。
そんなのは神の驕りだって?
やっぱりお前は人間だな。
いや、馬鹿にしちゃいないさ。褒めてるんだよ。流石だってな。
天使はそれぞれが役目とそれを果たすための力を持って生まれてくる。
命を救うことだったり、命を奪うことだったり、守ることだったり、闘うことだったりと様々な役目を持つ。
教会における神の祝福は人を守る役目を持った天使によって齎されてるもんだ。天使は個体数が少ないから、定めた場に力を注ぐだけでも忙しい。だから神父なんかは教会でしか祝福を授けられない。人の中には自力で天使の力を得るようなとんでもないような奴もいるけどな。
そうそう。今のうちに言っておくが、天使は悪魔と対立してるなんて考えは捨てろよ?
神様の前じゃ全ては平等なんだからな。
そう。全てが平等だ。
神様にとっちゃ、悪魔すらも救いを与える存在だ。
それなのに神と敵対し、人に徒なす存在と捉えられたのは、遥か昔は悪魔の勢力が人よりも遥かに強かったせいだろうな。
今は・・・まだ少し悪魔が優勢か?一番厄介だったのは魔族間での勢力争いが人間にも飛び火してた頃だからな。それがゲルマンによって統治されて1つの勢力となり、彼が封印された後を引き継いだ神聖ローマによって秩序が齎されたことによって随分落ち着いた。
最近は人も戦う術を身に付け出してきたからな、そのうち魔界を攻めようなんて言い出す輩も出てくるんじゃないか?
そうなって勢力が逆転するようなことがあれば、天使は悪魔を守るために生まれたりするんだろうな・・・。
まあ、まだ大分先の話だろうけどなー。
俺があの方の傍にいる限りは人間ごときが魔界に手を出すなんてことできやしないさ。
うん?あの方が誰か気になるか?
偉大なる私の主。
崇高なる我らが王。
親愛なる俺の兄。
魔王陛下。そう我らが神聖ローマ!
おや、どうした。顔色が悪いぞ?
ああ、疲れたんだな。それならゆっくり休めばいい。
好きなだけ、ずーっと・・・永遠に。
Guter traum!
地獄の沙汰も金次第?
非情なるかなこの世界、ってな。
さてと、兄上に報告してヴェストのとこに帰るかー。
何か土産でも買って行くかな。
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