『あの仕掛けを無傷で突破ってマジかよ。まあ、実力は申し分なさそうだな。・・・いいだろう。皇帝ロマーノの名において、お前を勇者と認める。勇者アメリカ!』
皇帝に勇者の証をもらったアメリカは、その足で数年前に城下町に移り住んだ兄弟が開いているショップへ向かった。
「やあ、カナダ!俺、ヒーローになったんだぞ!」
「久しぶりだね、アメリカ。また君はそんなこと言っt・・・ってえええええええ!勇者の称号ついてる!!」
「HAHAHA!勇者じゃなくてヒーローだぞ☆」
「そういえば皇帝が人手を探してるって噂があったっけ・・・」
驚愕に目を見開いたカナダは、爽やかな笑顔で本人にしか理解できないこだわりを見せるアメリカの発言を悪意なくスルーした。
「ヒーローには心強い仲間が必要なんだぞ。というわけで、一緒に行かないかい?」
「うーん・・・君を野放しにしとくのは心配だけど、お店をほっとくわけにもいかないからなぁ・・・。そうだ、『スカンジナビア』に行ってみたらどうかな?」
「んん?なんだい、それ」
「この街のギルドだよ。かなり大きい店だから、仲間を探すにはちょうどいいんじゃないかな」
「じゃあ、早速行ってみるんだぞ」
「ちょっと待ってよ。君、場所知らないだろう?!」
ギルド・スカンジナビアはアドリアの北地区にある店だった。
看板を掲げる扉を潜ってすぐに地下に入る構造になっており、温暖な気候の外とは違ってひんやりとした空気に満たされている。
「むしろ寒くないかい?」
「ギルドの管理をしてる人たちが北部出身だかららしいよ。あそこでグラスを磨いてるのが店主のスウェーデンさん、あっちで荷物を運んでるのがギルドリーダーのデンマークさん」
「ここは店とギルドが独立してるのかい?」
「いや・・・そういうわけじゃなくて、誰が上位かをはっきりさせると色々不都合だったというか、折り合いつけようとしてこうなったというか・・・」
カナダがどう説明しようかと悩んでいると、2人に気づいたウエイターが近づいてきた。
「いらっしゃいませー。えーっと・・・」
「カナダです」
「あ、そうそう。カナダさん。お久しぶりです。そちらは・・・?」
「僕の兄弟の 「ヒーローのアメリカだぞ!」 ・・・です」
「アメリカさん・・・。ああ、皇帝さんから通達が来てますよ。勇者の称号を頂いたとか。すごいですねー」
「まあね。君も何か困ったことがあったら言ってくれよ!」
ほわほわとした空気の青年はアメリカの発言を笑って流す。
「あ、僕はフィンランドです。スカンジナビアのウェイターをやってます」
「さっき言った2人と、フィンランドさん。それから厨房に居るノルウェーさんとアイスランドさんの5人がこのギルドを管理してるんだよ」
「そうなのかい。うちとは大分違うんだぞ」
「あそこのギルドも結構特殊だけどね・・・。牧羊場にあるし、偶にコアラが店番してるし」
「ギルドごとに特色がありますからねー。カナダさんの兄弟ってことはギルド・オセアニアですか」
「そうだぞ」
「僕、コアラって見たことないんですよねー。一度行ってみたいなって思ってるんですけど、城下町のせいかお店が忙しくて。あ、ごめんなさい。席に案内してなかったですね。こっちどうぞ」
「ご注文は?」
「僕はいつもので。アメリカは?」
「コーラはないのかい?」
「えーっと、うちの店は基本、冷たい飲み物は扱ってないんですよ」
「アメリカ・・・さっき寒いって言ってたのに・・・。あ、こいつはコーヒーでいいです。浅煎り豆で薄く淹れたやつ」
「分かりましたー」
「お待たせしました」
カナダの前にメープルの匂いを漂わせたコーヒー、アメリカの前に薄いコーヒーが置かれる。
「ありがとう。あ、そうそう、フィンランドさん。こいつがパーティメンバーを探してるんだけど、いい人いないかな」
「パーティメンバーですか?うーん、そういえばエストニアが一緒にクエスト行ってくれる人を探してたなぁ・・・」
「エストニア?」
「僕の親友です。普段は北地区に住んでるんですけど、用事があってこっちに来てるんです。それで、ちょっと面倒なクエストをしたいから人手が欲しいって。あ、あの人ですよ」
フィンランドが指差したほうを向いたアメリカとカナダは無言で硬直した。
美形がいる。
白いもちもちとした生き物を侍らせた美形が!!
しかもなんだか妙にきらきらしい仕草でグラスを傾けている!!!
なんだろう。なんであそこだけスポットライトが当たってるように見えるんだろう。あれ、この店って地下にあるけど、普通に明るいよね。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言で顔を見合わせて、視線で会話をした。顔しか似てないと言われたって生まれたときから一緒の双子だ。これくらい出来る。
彼はなんか嫌だ。
美形は仲間に入れません
「い、いや。よく考えてみたらまだ何もすることがないからさ。城から依頼が来てから探すことにするよ!」
「そ、そうだね!誘われたほうも、どんなクエストか分かってからのほうが安心だしね!」
「そうですか、残念だなぁ。あ、クエストに関することは後でデンさんかアイスくんに説明受けて下さいね」
「分かったんだぞ!」
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