「・・・なあ、アメリカ。前々から気になってたんだが、お前は防具の類は持っていないのか?」
「ヒーローに防具なんて必要ないんだぞ!」
「・・・・・・」

 何だかんだ言いつつも押し切られて、アメリカとパーティを組むようになって一月が経った。長いか短いかは人それぞれだろうが、互いを知り建前を取っ払うには十分な時間である。

 そしてようやくドイツは常々疑問に思っていたことを問うた。

 その答えは知らないほうがよかったかもしれないという内容だったが、根幹が生真面目なドイツは一度聞いた以上そのまま放置することなど出来なかった。


 

 


 必要ないと嫌がる(何かトラウマでもあるのか?)アメリカを説き伏せて、以前もらった地図を頼りにドイツの馴染みの商人が居る街へと向かった。

「ああ、ここだ。武具店アジア」
「・・・なんか胡散臭そうなんだぞ」

 漆喰の壁に瓦屋根、扉は引き戸。それだけでも周囲の建物とは一線を画しているのに、道に向かって突き出た庇に釣り下がる派手な色のライトと魚や謎の肉塊の干物はなんなんだろう。扉や窓には謎のお札、壁には謎の仮面や人形がくっついているし。

「ま、まあ確かに胡散臭いかもしれないが、扱う商品の質の高さは一流だ」

 前に他所で店を出していたときの外観はもっと凄かったしなとは言わなかった。
 店の趣味は友人のものではなく、彼が居候している店の店主のものなわけだし。

「邪魔するぞ」

 引き戸を開けて入った店内は香の匂いに満たされ、竈と棚が置かれた土間の奥にある一段高いところで長髪の青年が煙管を燻らせていた。

「中国。日本は居るか?」
「あいや。独国あるか。あの子ならちょうどダンジョンから帰って来たところね。日本ー、お前の友達のむきむきが来たあるよー」

 中国が店の奥に向かって呼びかけるが返事がない。

「寝てるみたいあるね。韓国、日本呼んでくるよろし」
「わかったんだぜ」

 棚にハタキをかけていたアホ毛の飛び出た青年が店の奥へと駆けて行く。それとは入れ違いにお盆を持った黒髪の少女がやって来た。

「お茶持ってきたヨ」
「謝謝、台湾」

 お盆ごと差し出された丸っこいコップの中には薄黄緑色の甘い匂いがする飲み物が淹れられていた。

「新規のお客さん連れてきたからサービスね。次からは有料よ」
「お茶にお金取るのかい!?」
「これも売り物よ。効力は疲労回復・足のむくみ」
「中国はこの店の店主で、薬師でもあるんだ」
「ふーん」

 中国に促されて板張りの床に直接腰掛け待つことしばし。
 ぱたぱたと軽い足音とともに着物姿の青年がやってきた。

「お待たせしました、ドイツさん」
「日本。急にすまないな」
「いえいえ。お気軽にお越しくださいと申したのはこちらですから。・・・そちらの方は?」
「俺が今一緒に仕事をしているアメリカだ。こいつの防具を見繕ってほしくて・・・って、おい!?」

 やけに静かな隣を不審に思って振り向くと、床に突っ伏して蹲るアメリカの姿があった。
 起こそうと肩に手を触れると、ぐらりと体が傾いて倒れる。横になったことで顕わになった顔は白目をむいていた。

「アメリカー!?」
「だ、大丈夫ですか!?こ、これは、まさか」
「台湾!台湾ー!香港がまた茶に薬を混ぜてるね!!」
「薬!?」
「見習いの薬師あるが、好奇心旺盛の悪戯っ子なもんだから・・・」
「弟子の管理はちゃんとしてくれ!」


 このあと意識を取り戻したアメリカは店に入ってからのことを何も覚えていませんでした。

 

                                                   僕等はいつでも初期装備

 

「うーん?なんか悪夢を見たような気がするんだぞ」
「き、気のせいだろう」
「自己紹介が遅れました。私、日本と申します。武器や防具の商人をしております」
「俺はヒーローのアメリカなんだぞ!」
「というわけで、こいつの防具を見立てて欲しいんだが」
「ええ、よろしいですよ。ちょうど在庫に軽くて動きやすくて頑丈でこれぞヒーローというものがございます」
「・・・・・・なんで全身タイツなんだ?」
「我が故郷に伝わるヒーローの装備です」