ロマーノ皇帝の依頼を受けイタリア姫の救出に向かった勇者一行(笑)。
 人身売買組織の足取りについては城の兵が協力してくれたため、イタリアを他の者に気付かれないように連れ出すだけですむはずの地味に難しくも単純な仕事のはずだった。

 しかし。そこで無事にすまないのがヘタリアクオリティである。


「待たんかああああああ!!!!」
「ヴェエエエエエエエエエエ!!!!」

 現在、ドイツは逃げるイタリアを追って全力疾走中だった。


 知らない人が見たら人攫いかと兵を呼ばれそうな光景だが、逃げた先が街の外の平原だったためその心配はない。
 そのかわりに障害物がないから純粋なスピードとスタミナの勝負になってしまったのは不幸だったかもしれない。

 どうして保護されるはずの人間が保護した人間から逃げているのか。
 それはひとえに”ドイツが怖かったから”であろう。
 なのでドイツが追うことは逆効果にしかならないのだが、相手に警戒心を与えない容貌のアメリカはロマーノの「組織についてはこっちで」という言を明後日に追いやって大暴れ中だった。

 引き離されはしないが、追いつけない距離を保ったまま逃げ続けるイタリア。
 鍛錬を欠かさない自分の身体能力に自信があるドイツは、引き離せは出来ずとも手が届かない距離を保って走り続けるイタリアに関心すらし始めていた。
 しかし、このままでは埒が明かなくて苛立つのも事実だ。

 どうしたものかと思案するドイツの耳に聞きなれた声が届いた。

「あぶないんだぞー」

 何がだと思う暇もなく、目の前のイタリアに向かって飛来物が衝突した。

「ヴェッ!?」

 ぶち当たった衝撃でイタリアがずっこける。
 駆け寄って見ると飛んで来たのはアメリカが弾を収納するのに使っているケースだった。

「やっと追いついたんだぞ」

 投げた張本人だろうアメリカは、返り血のついた顔に爽やかな笑顔を浮かべながら血みどろの手でサムズアップしてみせる。

 とてもホラーです。

「・・・何をしてきたんだ」
「悪人を懲らしめてたらちょっとヒートアップしちゃったんだぞ☆」
「ヴェエエエエエエ!」

 怖い。こっちのムキムキも怖いけど、あっちのメガネも怖い。

 このときのイタリアの心情は前門の狼後門の虎であった。
 本能でドイツのほうがまともそうだと判断したイタリアは彼の体の陰に隠れてアメリカを伺う。

「依頼内容達成したんだから早く街に戻ろうじゃないか」
「依頼・・・?」
「そうだ。お前の兄、ロマーノ皇帝に言われてお前を保護しに来たんだ」
「兄ちゃん?・・・あああああああ!そうだった。俺、攫われたんだった!」

 

                                                    逃げ足だけは天下一品


「ところで、君たち誰?」
「アメリカなんだぞ」
「ドイツだ」
「アメリカとドイツ・・・?ああ、兄ちゃんの言ってた勇者とその相棒だね!」
「勇者じゃなくてヒーローなんだぞ!」
「ちょっと待て、相棒とはなんだ!そんなものになったつもりはないぞ!」
「ヴェエエエエエ。やっぱり怖いよー!」