全世界的な停戦条例が結ばれて数ヵ月後。 自国の戦後復興が一段落したドイツはスイスの国際統括本部を訪れていた。 第二次世界大戦前に国際連盟の本部があった街ジュネーブ。 その本部建物跡地に現在の国際会議場兼国際統括本部はある。 交通や輸送に便利だからと即席会議場にしていたのをそのまま使ったのが引き継がれたというだけあって、凝った造りでもなければ近代的でもない。ただ頑丈そうで広そうな建物だ。 一歩その建物に足を踏み入れた瞬間、頭上から声が降ってきた。 「ヴェスト!いいところに来た!手伝え!!」 「・・・プロイセン?」 声のするほうを見上げれば、始めて見るほどにやつれた顔をしたプロイセンが転げ落ちるような勢いで階段を下りて来ていた。 挨拶をしようとする前に凄い力で腕を掴まれ上階へと連れて行かれる。 「生贄追加ー!!」 物騒なプロイセンの言葉に顔をしかめたドイツだったが、連れ込まれた室内の惨状を見、揶揄ではなく本当に生贄にされる不安を抱くことになった。 室内にいたのは顔見知りの国が十数人程度。 皆揃って机に向かい、一心不乱にペンを動かしている。 それだけでも異様な光景なのに、その中心で指示を飛ばしているイギリスから漂っている殺気がなんとも恐ろしい。 「ん?お、ドイツか。よくやったプロイセン!」 プロイセンの声に振り返ったイギリスの目が光った気がしたのも束の間、手に大量の書類とファイルとディスクを渡される。 ちょっと待てなんだこの展開はっ・・・! 「じゃあドイツ、この予算編成の見直しと復興予算の算出と国勢調査の見直しと提出書類の清書とこの国のダム工事と道路工事と護岸工事の来年度予算の数値化と・・・」 「ま、待て。いくつあるんだ・・・?」 「終わりが見えないくらいだ。こういうことに使える国はいいな!」 「イギリス・・・イタリアとか、ポーランドとか・・・追い出してたもんね・・・」 「坊ちゃん。ロシア一行が着いたとよ」 「一緒に来たラトビアとベラルーシは別室に。セーシェル、スウェーデンを連れて来い。シーランドと纏めてラトビアの面倒見させるから」 「はひ!」 「台湾。ベラルーシを頼む」 「任せてください」 「おい、イギリス」 「ん?・・・トルコか。空港まで日本を迎えに行ったんじゃなかったのか?」 「日本サンが・・・ロビーでロシアと対面して・・・」 「暴れてるのか。放っとけ。アメリカ同様八つ当たり要員に分類されてるだけだ。プロイセン、医務室に連絡してロビーの連中に退避するように伝えて奥部屋を空けるようにメイドに言っとけ」 「おう。頑張れよ、ヴェスト」 「おい待っ」 「イギリスさん!門前に着いたスイスさんから「止めるか?」という連絡が・・・」 「余計な体力は使わず、裏口から入るように伝えてくれ。ついでにキッチンのイタリア兄弟に食事の増量を言っとけ」 「はい」 「ギリシャ!トルコとにらみ合う前に気候データの振り分けと自然災害による被害の算出を済ませろ!トルコ、そろそろ日本が落ち着く頃だからロシアを運ぶの手伝って、一時帰国中のオーストリアが空港に着く頃だから迎えに行ってくれ。えーと・・・スペインとエジプト。今やってるのはフランスに押し付けてロビーの方に」 「ちょっ!?イギリス!俺を過労死させる気か!?」 「やかましいワカメ髪!!睡眠不足の前後不覚でうっかり瀕死にされたくなけりゃぐだぐだ言うな!」 「・・・少しは休もうぜ?」 「どこぞの国の不祥事の総洗いと世論の方向性示唆案が出来たらな!」 「イギリス」 「ああ、スイス。おかえり。・・・その荷物はなんだ?」 「ただいまである。瓦礫に埋まっていたエストニアだ。・・・ああ、気づいたようであるな」 「・・・よし。じゃあこの情報操作疑惑のある国への対策案とサイバーテロへの対策とコンピュータウイルスのワクチン開発と地域格差問題に対する各国の動向調査の整理を」 「多い!多いです!!」 「優先順位は同時だからな。遅れるなよ」 「いーやー!!」 「文句があるならチョモランマの上で叫んで来い。スイス、”EBH339”から回収した証拠物件の調査指揮を頼む」 「承知した」 「身を粉にして働けよー。無くなることはないから」 「ないんかい!」 「恨み事なら日本に丸1日サブミッションかけられて現在療養中のアメリカに言え!動けないわりに精神状態はしっかりしてるから多少のことなら大丈夫だ!」 「・・・イギリス。お前が偶に席外す理由ってまさか・・・」 「他にもお前らが来る前に扱き使ってたらぶっ倒れた東南アジア地域国と北アメリカ地域国もいるぞ」 「すでにリタイア組が居るのかよ」 「俺すでにぶっ倒れそうなんやけど・・・」 「無駄口叩けるうちは大丈夫だ。本当に駄目になりかけたら幻覚・幻聴が出始めるから、それが過ぎたら言えよ」 「ってことは駄目になるのは決定!?」 next→歪な茶会 |