普段は政策でも貿易でも交流のない弟分――単にあっちが年下だったというだけで兄弟らしいことはそれほどしていないが――に「遊びに来て」と誘われて、最近は国内も落ち着いてきたからまあいいかと了承の言葉を返したのは半月ほど前。
 久々に訪れた北の国は、相変わらず寒くて白い。地面も吐く息すらも同じ色だ。
 かつて白いのは怖いと震えていた子供を思い出し、懐かしさに笑みが零れた。

 何度も歩いた道を覆う雪道を歩いて、辿り着いたのは見慣れた一軒屋。
 荷物を持ち直して呼び鈴を押せば間髪入れずにドアが開いた。

「イギリス君!」

 挨拶をすっ飛ばしたロシアにすっぽりと抱き込まれて、とりあえず自由な手で髪を撫でてやれば嬉しそうに首に顔を埋めてきた。髪が頬に当たってくすぐったかったので適当に掻き揚げて、軽く親愛のキスをしてやるとお返しのように口付けられる。相変わらずロシアの挨拶はスキンシップが激しい。

 しばらくしてから体を放したロシアは離れたところにいる3国を呼んでイギリスの前に並べて立たせた。

「右からリトアニア、エストニア、ラトビアだよ。最近うちの子になったんだー」
「こ、こんにちは・・・?」
「ああ」

 リトアニアと呼ばれた国はぎこちなくも挨拶してきたが、隣の2国は見事に硬直している。目の前で起こったことが信じられないという顔だ。
 ・・・普段ロシアに何をされているのか不安になってきた。

 無邪気な分容赦ないからなーと思っているとロシアの腕が伸びてきて肩を掴まれる。

「こっちがイギリス。僕のお兄さんなんだから変なことしちゃ駄目だよ?」
「あ、はい」
「はあ」
「はい!」

 ・・・・・・・・・

「「「はいぃ!?」」」

 今度は3国から条件反射のような同意が返ってきて――実際条件反射なのだろうけど――間をおいてから悲鳴が上がった。

 え?!お兄さん?だからあんなに仲良しで・・・。てか兄弟いたんですか!?イギリスってあの?大英帝国の?ちょ、は?どういう・・・。征服思考は遺伝?遺伝ですか?うえええぇぇぇ!?

 声に出ているわけではない。ないのだが表情で何を考えているのかは分かった。
 というか大体の国は同じような反応をしてくる。

「うーん・・・」
「ラトビアー!!??」

 一番小さい国が耐え切れないと言うように倒れて、隣の長身が名前を叫んだ。

「・・・賑やかになったなぁ」
「でしょ?」

 しばらくは恐慌状態から復活しないだろうからとロシアはイギリスを屋敷の奥へ誘う。

 イギリス来るからお菓子作ったんだ。紅茶入れてよ。いいぞ。茶葉はディンブラにするか・・・。あ、ジャム作ってきたからロシアンティーに使えよ。本当?嬉しいな。

 ほのぼのとした会話を交わしながらロシアとイギリスが廊下の角を曲がって見えなくなって、兄弟というより親子みたいだったなぁと思ったリトアニアは、その思考を最期に意識を手放したのだった。

「待っ・・・リトアニアさーん!!一人にしないでくださーい!!」












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 暗転オチです。
 お兄さんを見せびらかしたかった&バルトを紹介したかったロシア。

 兄弟といっても育てたわけではなく、何かあったときの精神的な避難所な感じ。