サンピエトロ大聖堂。パンテオン。サンタンジェロ城。
 観光名所を一通りめぐって、真実の口に手を入れてふざけてみて、スペイン階段でジェラートを食べようかということになった。

 移動がベスパだったら完璧にローマの休日だ。
 いつでも逃げれるように荷物は持ち歩くという逃亡者のような心得と、人数の問題から借りたレンタルカーに凭れ掛かってイギリスはぼんやりと考えた。
 視線の先ではスイスと日本がジェラートを買っている。

 次はトレヴィの泉でコインを投げ入れようかと地図を広げたときだった。

 轟音がのどかな情景に割り込んできたのは。

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 定番のバニラ、チョコレートに、変り種のヨーグルト、ティラミス。日本では聞かない名前のカッサータ、ノッチョーラ。

「迷いますねぇ・・・」

 メニューの前に張り付いている日本の後ろからコントラバスのケースを持ったスイスが同じように覗き込んでいる。

「コーンにスモールサイズをトリプルで盛ってもらいましょうか」
「・・・そんなに食べるのか」
「はい。すいませーん。バニラとチョコレートとストロベリー。ヨーグルトとミルクとティラミス。マンゴとバーチョとカスターニャをお願いします」

 おいしいものは一期一会だ。

 商売用だけではない笑顔を浮かべる売り子に注文を済ませて財布を取り出そうとした日本をスイスが呼んだ。

「日本!」
「え?」

 ぐいと後ろに引かれよろめく。その足元に突き刺さったのは、砲丸

「「・・・・・・・」」

 物騒なことこの上ない予感がする。
 ぼかんと口をあけている売り子にお得意のアルカイックスマイルを向けて注文の取り消しを告げた。

「イギリスさんのところへ」

 行きましょう。と視線を動かした日本の目に飛び込んできたのは、車とイギリスではなくて猛スピードで走りこんできた大型トラック。

「・・・え?」
「ふむ」

 荷台のこちら側が開き、並んだ銃口がこちらを向いた。

「ええええええ」
「逃げるぞ」
「イ、イギリスさんは!?」
「あれなら一人でも大丈夫であろう」

 飛んでくる銃弾を背に2人は走り出した。

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 視界をトラックに塞がれたイギリスは、一拍置いて聞こえてきた銃声に眉をひそめた。
 あの2人がどうこうなるとは思っていないが自分はどうしようか。車と荷物を持った状態で逃げるのは大変だし、外国ではぐれるのは面倒なことこの上ない。
 幸いなことに襲撃者たちはイギリスに気づいていないようなので、2人から携帯に連絡が来るのを待つことにしよう。
 そう結論付けてキャスケットを目深に被りなおし、運転席へ座ったイギリスは避難する地元民たちに混じって車を動かした。

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 砲弾。銃弾。ボーガン。ロケットランチャー。その他もろもろ。
 殺す気なんじゃないだろうかという飛び道具の数々に、常の襲撃者とは違うとすぐに分かった。だからといって追跡の手が緩まるわけでもなく、トラックを裏路地に入ることで撒き、木箱などが密集する物陰に隠れた。
 地面に膝を着いてすぐスイスが背負っていたコントラバスケースの蓋を開ける。中に入っているのは楽器ではなく武器弾薬。そのうち一つを日本に渡して自身もライフルを手に取る。

「賞金稼ぎ・・・にしては荒っぽいやり方ですよね」
「うむ。傷でもつけたら報酬はなしだからな」

 車を降りてやってくる追跡者たちを銃で怯ませ、催涙弾を投げ込む。2、3回繰り返せば車中の人間は出尽くしたらしく、人の気配がなくなった。
 武器は持ったままで一旦大通りにでる。

「・・・スイスさん」
「なんであるか」
「いいニュースと悪いニュースがあります」
「・・・いいニュースから聞こう」
「あそこにキーがかかったままのバイクがあります」

 日本が指差す先には誰かが乗り捨てたらしきバイクが横倒しになっている。

「悪いニュースは?」
「携帯電話を持っていません」

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 助手席を何気なく見たイギリスは、そこに置いてある物に驚いた。
 驚きすぎてうっかり車道の中央線をはみ出しかけた。左ハンドルはやはり慣れない。ぎゃっと悲鳴があがって、荷物の倒れる音がする。

 なんで日本の携帯が!?

 黒に蜻蛉球のストラップをつけた携帯は間違いなく日本のものだ。さっきまで助手席に座っていたのは日本だから、落としたのだろうか。確かスイスの携帯は修理中で・・・

「・・・『ぎゃ』?」

 誰もいないはずの後部座席から悲鳴が聞こえてきたことにようやく気づいてルームミラーを見た。
 映るのは着替えや武器を主とした荷物。それから、見たことのない少年。東洋系の顔立ちで、色素の薄い髪をしている。

「えーと、お邪魔してます」

 そう言って、少年は頭を下げた。

 



 長くなったんできります。書くのが面倒になったわけではないです。
 書きたかったもの→コントラバスケースから武器。帽子を被る英。ジェラートメニューを覗き込む日。

 オリキャラみたいなのが出てきましたが、某マフィア漫画から設定借りてきますから厳密に言うとコラボになります。


 カッサータはドライフルーツ入り。ノッチョーラはヘーゼルナッツ。ココはココナッツ。バーチョはアーモンドのチョコ包みをチョコレートにいれたもの。カスターニャは栗入り。
 ジェラートの名前を調べるのが一番大変だったという・・・。
 日本は無難に定番。スイスは乳製品。イギリスはフルーツ系。