泉の前で後ろを向いて投げたコインは狙い違わず、小さな音を立てて泉の中に落ちて行った。
 トレヴィの泉は肩越しにコインを投げ入れると再びローマを訪れることが出来ると言われている。ローマの住民たちは二度とこの傍迷惑な観光客を受け入れたくはないだろうが、直接的な原因ではないのだから許してもらおう。

 謎の襲撃に立て続けに見舞われながらも死者0、損害額0という見るからに訳ありな騒動から数日。
 近隣にマフィアという犯罪者さん大集合な集団のある国だからか、ローマは思ったよりは落ち着いていた。

「次はジェラートか?」
「はい」

 例のごとくやって来た追っ手(予想していた通り一番面倒なグループだった)を蹴散らしたはいいものの、国境の方に手を回されていたためもうしばらくイタリアに留まることになった。
 しばらくは様子見だと、観光を続行中である。

 人だかりを掻き分けて広いところへ出ると、人ごみを嫌がって離れていたスイスが、手に持っていたものから顔を上げた。

「お待たせしました」
「・・・なんだ、それ?」
「うむ。先ほど買ったものだ、なかなか面白い」

 スイスが持っていたのは新聞紙だった。その名もマフィア新聞。

「・・・観光土産でしょうか?」
「いや、本物である。・・・どうやら同業者と思われたらしい」

 そう言って椅子代わりにしているコントラバスケースを叩いて示した。

「楽器が入っているなら、座ったりしない。入っていないなら、こんなところへ持ってきたりしない。だそうだ」

 なかなか見所のある奴だったので買ってやったのだと嬉しげに語る。
 よかったですねーと相槌を打っている日本の横で、イギリスは一面を飾る記事に釘付けになっていた。

『トレイティムファミリー壊滅。ボンゴレ10代目の逆鱗に触れる!

 先日ローマでトレイティムファミリーが一般観光客をボンゴレ幹部と間違って襲う騒ぎがあり――その場に居たボンゴレ10代目ツナヨシ・サワダと幹部のタケシ・ヤマモト両名が取り押さえ――このファミリーは街中を破壊しながら追撃するという蛮行を――』

「スイス・・・これ・・・」
「うむ。先日の騒ぎのものであるな」

 飾られているボンゴレ10代目の写真に写っているのは、間違いなく自称しがないサラリーマンの青年だった。

「マフィアだったんですねぇ。日本人は珍しいんですよね」
「マフィアは血統重視だからな・・・しかもボンゴレっていったらかなりの巨大勢力だぞ」
「それだけの実力があるということであろう。ということでイギリス、貰っていた名刺はあるか?」

 スイスに促されて、別れ際に渡されたポケットから取り出す。

 やることは、一つだ。

 一般人を巻き込んだことでマフィアの家庭教師から説教を食らっていた綱吉の下へ、「密出国したいから手伝え」という一般人らしからぬ依頼の電話が舞い込む数分前のことであった。






 この後、ボンゴレへと招かれた3人ですが、当然マフィア内にも手配書は配られてます。世界指名手配中とばれて大騒ぎになるかと思いきや、国であることを伏せて事情を端的に教えると、周りの奇天烈な知人のせいで苦労している綱吉の同情を買い、仲良くなります。そして無事出国。
 それ以来、季節ごとの贈り物(お中元・お歳暮)をし合う程度の仲に。外国のものより日本の物のほうが嬉しいだろうからと日本中心な中身です。
 んで、イタリア観光する際は連絡入れて情報操作とかしてもらう、と・・・。