国際会議後にアメリカの家で飲んでいた。話題は大抵、例のひきこもり国のことで、どうすれば公の場に
出てくるようになるだろうかと話していたのだ。 「なあ、アメリカ」 バキャッ! 「お、おい!どうした!?」 ぶつぶつとつぶやく姿はホラー映画並みに不気味だ。 「前に、何かあったのか?」 とりあえず落ち着かせようと水を飲ませて座りなおす。我を取り戻したらしいアメリカはぼそぼそと喋り始めた。 「・・・・手紙」 外見だけとはいえ20前半の男がどうしてそんなものを持ってるんだ。というか使うなよ。でもまあイギ リスだからな。 「文章はちゃんとしたアメリカ英語でさ、そのときは珍しいなとか思ったんだ」 でも読み進めていくうちに嫌がらせだと気づいたのだという。 「悪口でも書いてあったか?」 まだ乳幼児だった頃のアメリカを育てたのがイギリスだ。物心つく前からなのだから昔話には果てがない。 「それも母親が赤ちゃんにするような言葉で。昔の失敗談とか、まあ、いろいろと」 なるほど。読み飛ばせばそれを見落としてとんでもないことになるってか。 「このふたつが入り混じった文がしばらく続いて」 しかも日本製のやたらにリアルなものの怖いところ総集編みたいな代物だったらしい。玄関から続く廊下に すっぽり入るサイズで、動くことも出来ずに見たのだという。 「長い髪の女の人がテレビ画面から出てくるところなんて、なんでか立体映像だったんだよ!?ずるーって、 本当に出てきたかと思ってうっかり発砲したら映像が止まったからよかったけど!結果オーライだったけど!!」 いや、オーライなのかよ。 「仕方ないからちゃんと手紙読むことにしたんだけど、今度は速達着払いで送られてくるようになって」 郵便局員から毎日それを受け取るなんて一種の羞恥プレイだ。しかも料金自分持ち。 「折角手紙書いたのに読まないなんて酷いとかなんとか悲壮感たっぷりに書いてあって、その後やっぱり昔話で」 暗い顔でこくりと肯く。恋人から送られてきたら照れる程度で済むだろうが、相手がイギリスでは無理だ。嫌が らせのためとはいえよくそこまでしたものだと感心まで覚える。 「それで、二週間したら今度は人形が届けられて」 市松人形といえば、ホラー映画の常連になっている暗闇で直視するのは少し恐ろしいが、着物を着たかわいらしい人形だ。 「とりあえずリビングに飾ったんだけど、今度はその人形が手紙を届けるようになって」 アメリカらしからぬファンタジーな発言に拍子抜けした声を出すと、不機嫌そうな口調で言葉が続く。 「毎朝起きると人形が手紙を持って枕元に立ってるんだ」 訂正、十二分にホラーだ。 「イギリスが毎朝やってきてるのかなって思って、ある日寝ずにこっそり待ってたんだ」 ただの人形は動いたりしない。そんなことは分かっている。そして分かっているからこそ余計に恐ろしい。 「・・・それでどうしたんだ?」 売り払ったり捨てたりするのは気がひけて、送られた箱をゴミ箱から取り出して人形を戻そうとした。 「だけど・・・」 その後の記憶はない。気づけばその人形を片手に抱え持った状態でイギリスの家に居て、ひたすらごめんなさいと 謝り倒していた。 「・・・・・・・・もう二度とあんな目にあうのは御免だよ・・・」 +++++++ 市松人形はイギリスが日本の家に行ったときに(人形と)意気投合してもらったものです。匍匐前進は見られて
いると気づいたから、サービスとしてやりました。普通に歩くより怖い。 |