放課後、いつものように生徒会室を訪れたルートヴィッヒは、扉を数センチ開けた状態で硬直することになった。

 生徒会室は入ってすぐに応接用のソファーとテーブル、その奥には棚と窓、左側は給湯室に繋がっていて、右側は役員用のデスクに会長用の重厚なデスクが置いてある。
 つまり部屋に入ってすぐ目に入るのはソファーとテーブルなのだ。そして今、視線の先にはソファーに座る二人の人物が見える。
 一人は金髪に緑の目。制服を規定通りきっちりと着込み、背筋を伸ばして座る生徒会長のアーサー。その向かいに座るのが、制服は夏なのにマフラーをつけて背もたれに凭れ掛かる大柄な生徒副会長のイヴァン。
 一般生徒から畏怖と賞賛の目で見られるある意味似たもの同士の2人は、それぞれ権力行使をする気満々で生徒会役員に就任し、思想の違いからとても仲が悪く、それでいて上手く共存をしている『混ぜるな危険』なコンビである。

 普段部屋にいるのは書類仕事をこなすアーサーで、じゃあイヴァンは何をしているのかというと風紀関係――いわゆる学校の外に関する仕事をしていることが多い。よって会議のときでもないと顔を見せることすらないのだが、その彼が部屋に来て何故かアーサーと茶会をしている。

 廊下ですれ違えば無視し、同じ空間にいれば相手の存在をないものとして扱い、口を開けばいっそ罵り合ってくれと訴えたくなるような薄ら寒い会話をしている2人がだ!

 別に和やかな雰囲気ではないが、この2人が揃っていて殺気がないことなど生徒会役員になってから初めて遭遇した状況である。

 今すぐにでも世界は終わるかもしれない・・・。

 極めて本気でそう思ったルートヴィッヒは、耳に飛び込んできた会話に意識をさらに遠くに飛ばすことになった。

「ねえ、アーサーくん」
「なんだ?」
「僕のものにしていい?」

 いや、待て。これはどういう流れの会話だ。

 心中でツッコミを入れるルートヴィッヒに2人は気づいていない。

「堪え性のない奴だな」
「そんなサービス、ロシアにはないんだよ。ね、だめ?優しくするからさ」

 首を傾げながら尋ねるイヴァンに、アーサーは悩むような仕草を見せる。

 このまま気づかれないうちに立ち去ってしまおうかと考えて、ふと視線を巡らしたのが失敗だった。
 視線の先、右側にある役員デスクから救いの視線をおくってくるエドァルドがいた。

「・・・・・・・・」(一人にしないで下さいぃ!)

 見詰め合うこと数秒。 

 結果として、ルートヴィッヒがエドァルドを見捨てることなど、できなかった。






おまけ
「ね、向日葵ちょうだい?ちゃんと世話するから」
「仕方ねーな」
(花の話か!?)
「ついでにアーサーくんも欲しいなぁ」
「真っ平ごめんだ」
 ツンドラ発生3秒前。ルートヴィッヒ&エドァルド、逃走決定。