世界はゆっくりと、そして確実に復興している。

 待ち望んでいた世界の――国たちの確実な回復と完全な修復。
 書類の量の減少でそれを知るというのも変なものだが、成果が目に見えるというのはいいものだ。
 

「そう思わないか?アメリカ」
「・・・・・・俺が分かるのは、今現在君が怒ってるということだけだよ」
「何を言ってるんだ。カワイイオトウトが入院したなんて知らせを受けたら、心配の1つや2つもするに決まっているだろう」
「それが病室に駆け込むなり万年筆を投げてきた奴の言葉かい!?」
「駆け込んだ病室の患者が窓枠に足をかけて今にも脱走しようとしていたら怒って当たり前だと思うぞ」
「ドアの向こうから殺気が近づいて来たら逃げたくもなるよ・・・」
「ああ・・・仕事を邪魔されるのはいいが、睡眠を邪魔されるのは嫌なんだ」
「・・・・・・自業自得じゃないのかい?」
「まあな」


 ほら食え。と差し出されたウサギ形に剥かれたリンゴは、フォークの代わりにナイフが貫通しその先はアメリカの鼻先に突きつけられている。

 嫌がらせだ。
 照れ隠しみたいな嫌がらせだ・・・!

 半目で恨めしそうな表情を作ってイギリスを睨むが、彼は平然とした顔で自分の分のリンゴを食べている。


「言っとくけど、俺が入院したのは君たちのせいなんだからな!」
「・・・・・・お前が窓からコーヒーカップと一緒に落っこちたのが?」
「その原因が君たちなんだよ!なんだいあの宣言は!!?」


 全世界に急遽、伝達された宣言。
 『イギリス・日本・スイスの有する国際統括本部の指導権及び統括権を別国へ譲渡する』

 そのときの驚愕の程は、聞いた瞬間に寄りかかっていた窓から後ろに倒れこんだことから推察して欲しい。
 

「最終目的は隠居だな」
「なんだいそれ・・・」
「・・・老後?の夢?」
「どうして疑問系!?首を傾げたいのはこっちのほうだよ」
「叶った夢は夢じゃないそうだ」
「・・・・・・君、日本が化けてたりしてない?」
「まさか。今頃、日本はアジアの連中に捕まって質問攻めに合ってる」
「・・・・・・」
「スイスは対応を面倒くさがって逃げたからヨーロッパ勢総出で追いかけているらしい」
「・・・やっぱり納得していないのは俺だけじゃないんだ」
「まあ、想定範囲内だけどな」
「・・・当たり前だよ」


 あんな宣言、いきなり言われて納得できる者などいないだろう。

 千年以上前に彼らが引きこもり宣言なんてものをしてくれたときは、全く状況に追いつけない置いてけぼり状態だったから全てが手遅れになってしまった。
 そのお陰でSHKvs国際連合なんていう長年に渡る闘いが繰り広げられる事に成ったのだ。

 第二のトラウマ成立なんてご免だ。
 彼らがどこまでのことを想定してあの宣言をしたのかなんて分からないが、やると言ったら絶対に成し遂げるのだろう。
 折角日々平穏になったというのに・・・。

 ・・・・・・ああ、だからあの宣言を実行に移したのか。

 嫌な結論に至って深い溜め息が出る。なんでヒーローが病院のベットの上で悩まなくちゃいけないんだ。


「イギリス、撤回するつもりはないんだよね」
「ああ。元からそのつもりだったしな」


 駄目もとで聞いた言葉はすぐさま肯定されて、ついでに黙れとばかりにリンゴを口に詰め込まれた。


「まあ、反対するのも同意するのも自由だからな、精々頑張れ」


 そんな心の篭もっていない激励は不要です、オニイサマ。







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