「パパー!!!」

 かわいらしい声をあげて撮影所に駆け込んできた少年に、その場にいた全員が動きをとめた。

「ピート!?」

 反応することが出来たのは少年に「パパ」と呼ばれたアーサーだけで、間髪いれずに腰あたりに体当たりして抱きついてきた体を受け止めて呆然と己より低いところにある顔を見つめた。

「お前、なんでこんなところに・・・」
「ピット君一人で来たんですよ。凄くないですか?」
「うん。いやところでさっきのあれは」
「あ!そうだ、認知してくださいです!」
「・・・・・・何があったんだ?」

 何の解決にもなってないどころか内容が堂々巡りになっている二人だが、誰もツッコめない。
 先ほどから全スタッフと共演者から「聞いてくれ」という無言の重圧が『伝説のKYアメリカ』なアルフレッドにかかっている。
 役と現実は違うんだぞ!という心の叫びは受け入れられず、兄のフランシスまであんまり関わりたくないという視線を返された。

「・・・ア、アーサー」
「はい?」
「あ、あのね・・・その子は、えっと・・・君のお子さん?」

 もっとましな聞き方はないのかアルフレッド・F・ジョーンズ!

 だったら君らが聞いてよ!!

 肯定されたらどうしようと思っていたが、アーサーの返答は予想していたどれよりも斜め上だった。
 つまり――

「・・・・・・すいません!失礼します!」

 がしぃっという擬音が似合う動作で少年の肩を掴んで肩に抱え上げ、撮影所を飛び出し――逃げた。

「ちょ、アーサー!!?」

 戻ってきてえぇぇー!