首筋に突きつけられる刃に彼は深森のような緑の目を細めただけで、これといった感情を表すこともなく目の前の人を見つめた。

「アーサー・カークランドだな」

 殺意と怨嗟の念が篭もった目を向けられても彼の表情に変化はなく、ただゆるりと首を傾げた。

 植民地とした国の不穏派だろうか。それとも戦争で殺された遺族か。はたまた己の力量を見誤った権力者の刺客か。

 まあ襲撃者の理由などどうでもいいことだと結論付けて、どうしようかと考える。
 はっきり言って面倒くさい。

 華奢な体つきのまだ年若い男。
 少年の域を脱していないようなこの男が侵略者たちの先導者だと教えられても最初は信じられなかった。
 しかし戦場において己の同胞を殺し、指導者を蹴落とし、土地を蹂躙した人々の中心に確かにこの男はいた。
 屈強な兵を従え、外見にそぐわぬ威圧感を纏いながら立つ君臨者。

 殺シテヤル

 ただそれだけを思った。
 殺された同胞の無念を知っているか。
 踏み躙られた自然の悲鳴を知っているか。

 今、目の前にいる君臨者は何の反応もなくまるで他人事のように、その刃が己に向かっていることにすら興味がないというように見てくるだけだ。

 殺して燃やして何もなかったことにしようかと、上司に知られたら怒られそうなことを考える。
 不穏分子は徹底的に叩き潰すべきなのだ。そのためには襲撃者から情報を得るのが一番早い。
 だが今は、その聞き出す手間すら面倒くさい。

 ここはお前の立つ場所ではない。
 ここはお前の居るべき場所ではない。

 剣を振りかぶる。
 振り下ろした刃がアーサーに届く、その瞬間にようやく彼は口を開いた。

 ふいに感じた慣れた気配に、今の疲労の理由を思い出した。

 そろそろ到着する時間だったか。待たせたせいで拗ねてなければいいのだが。

「・・・無理だな」

 そう言った表情は深い悲哀に満ちていた。

  柄を握る手に衝撃が走り、思わず手放す。
 そのまま重力にしたがって落ちかけた刃は、アーサーに届く前に鈍い音とともに弾かれて横へと飛ばされた。

 何が起こったのか分からず呆然としていると、アーサーが流れるような動きで身を引く。
 間をおいてたんっと軽快な音をたてながら先ほどまでアーサーがいた場所に一人の少年が降り立った。

「な、だっ!?」

 誰だと言う前に、少年が足を踏み込んで接近してきた。
 懐に飛び込んだ少年は手を振りかぶって怒号と共にそれを相手の腹に叩き込む。

「てめー、兄(あに)さんに何してやがんだ!?」
「・・・殴り飛ばしてから言っても聞こえませんよ」

 内臓を潰されるような衝撃に耐え切れず昏倒した襲撃者を足蹴にする少年に、少し離れたところでボーガンを構えていた長身痩躯の青年が声をかける。

「カナダ。オーストラリア」
「兄さん!」
「お久しぶりです。イギリス」

 名前を呼ばれた少年――オーストラリアは蹴りつけていた襲撃者を放ってアーサーに抱きつくべく駆け寄ってきた。
 そして抱きつく寸前に青年――カナダに服の襟を掴まれて止められむくれる。

「はーなーせー!」

 じたばた暴れるオーストラリアをいつものことだと放置して、カナダはイギリスに顔を向けた。

「お疲れのようで・・・後のことはお任せください」
「ああ、すまん」






 カナダとオーストラリア作っちゃいました。
 キャラ設定もあげるつもりです。どんどんサイトが原作から離れていく・・・

 植民地に嫌われてるっぽい英ですが、この二国はなついてそうだなーと勝手に解釈。

 それと解説。
 場所としては最近侵略したどこかの国の村みたいな感じ。
 イギリスはカナダとオーストラリアが来るので時間を空けるために仕事を詰めたせいでお疲れです。
 剣を手放したのはカナダのボーガンのせい。その後吹っ飛んだのは、後方から跳躍したカナダが蹴って弾いたからです。んでそのまま着地。



反転してみた人、いる