ヴェストとイタリアちゃんと日本が遭難したらしい。 青い顔をした伝令兵の知らせを聞きながら最初に思ったのは、「へー、そうなんだー」と返したら怒られるだろうかということだった。 みっともなく取り乱す上層部を脅し混じりに落ち着かせ、右往左往する部下には緘口令を引き、連合側に知られないように捜索部隊を編成し、仕事が滞らないように指示を出し終えた頃、部下に連れられてオーストリアがやって来た。 「よお、坊ちゃん。話は聞いたか?」 執務室に入ってきたオーストリアに、プロイセンは書類を見たまま挨拶もすっとばして要点だけを話しかけた。なんとも不遜な態度だが、オーストリアに対する態度としては通常だ。 知らせを受けるなり「あの馬鹿弟がー!」だの「ジャガイモと話し合いなんか冗談じゃねぇぞ!」だの叫びながら荷造りをし、「あいつがいないと俺が仕事することになるだろうが!」と喚きながら飛び出して行ったらしい。 枢軸側ではないスペインを捜索隊に加わらせるのはどうかという意見も出たが、直接国益に関わらない領域での子分のお願い(というか脅しもしくは我侭)に反発できるスペインではない。 ただ、見送りに行った部下によるとハルバードを担いで「己がかつて謳った無敵艦隊見せたるで、眉毛!」と言っていたらしい。(注:”無敵艦隊”の名はイギリスがイヤミでつけた名前) 「・・・あなたにしては冷静ですね。もっと取り乱すかと思っていましたのに」 プロイセンは部下を振り切って捜索に向かおうとするだろうというのがオーストリアの予想だった。 「んー、心配してないわけじゃねぇけどよ。国である以上、そう簡単に死なないのは分かってるしな。それに」 あっさりと言われた内容を数秒かけて咀嚼したオーストリアは、渦巻いた百万語を飲み込んで深いため息に変えた。 「鬼ですね」 粗野な性格に似合わない厳格な子育てをしていたのは今のドイツを見れば分かる。 しかし、外見だけで内面は違うとはいえ2ケタになったばかりの子供にサバイバルをさせようとは思わない。 「俺とかハンガリーなんかはそれより下の歳で野外生活してたぜ?それにちゃんと場所は選んだんだぞ。脅しで食われんなよとは言ったけど、大型肉食獣がいないのは確認済みだったしな。狩りや釣りの仕方は教えてあったし、一応部下も監視役として潜ませてた。・・・適度に襲って、限界がくるようなら最低限助けるように、っていう命令つきだったけど」 けせせせと笑うプロイセンは非常に楽しそうだ。 「無人島から帰ってしばらくは寝てる間に人の気配が近づくと飛び起きるようになってたな。そのうち、察知するだけで殺気がなけりゃ起きないようになったけど。他にも寝てる間に連れ出して森に置き去りにしてみたり、目隠しして領土内の適当な場所に放り出してみたり。船に乗っけて海に放り出すのは部下に全力で止められたなー」 一歩間違えれば人でなしの虐待者である。よくドイツはこんな兄を慕ったまま成長できたものだ。 「でもよ。あいつ最近たるんでるみたいで、イタリアちゃんがベットに潜り込んでも気づかないらしいんだよな。なあ、これって鍛え直すべきだと思うか?」 数日後、捜索隊に発見されたドイツが再び無人島に放り出されたかは定かではない。
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