適当にチャンネルをまわしていたテレビの画面が切り替わり、速報のキャスターが最後まで戦い続けていた米・露の両陣営が停戦協定を結んだことを伝えた。

 それは一時の休息の知らせ。
 そして誰しもがこの休息が仮初のものに過ぎないと知っている。


「これからが正念場であるな」


 誰に言うでもなく呟いたスイスは、なおさら今の自分の状態が歯がゆいと白で覆われた己を見下ろした。
 内臓破裂及び左腕骨折、軽いものは切り傷打ち身青痣火傷その他。
 戦争を利用して騒ぐテロ組織とぶつかった結果がコレだ。
 医者に絶対安静を言い渡され、日本に外出禁止だと言い聞かされ、娯楽道具とともに放り込まれたのはイギリスが缶詰になっている書斎。


「他国の様子はどうなのだ?」
「今は静かなもんだ。むしろ疲弊によって消えないかのほうが心配だな」


 尋ねられたイギリスは山脈を築く書類を処理していく手を止めないまま答える。
 戦争に介入しない意思を示した国への支援。戦場にされた被災国への援助。さらには国交正常策の提案に民族問題への介入。
 いっそ国境なんてものを無視して都合のいいように分けたくなるような仕事が積み重なっている。
 それを一手に引き受けて捌いているのがイギリスだ。
 日本は別件にかかりきりだし、スイスは机上仕事にも外交にも向いていない。


「さっき・・・正式な経路からじゃないが、エーメリーから知らせがあった」
「・・・・・・エーメリー?」
「仏伊戦争のときに前線指揮をさせていた英国王室特務室の第一部隊補佐官だ。あの時お前がいた部隊と接触していたはずなんだが・・・」
「・・・・・・・・・」


 興味のない人間はどんなに特徴的でも覚えるということをしないのがスイスだ。

 まあいいかと思い出させる努力をあっさりと放棄したイギリスは本題に戻ることにした。
 

「それでな、来週アメリカが来るそうだ」
「・・・そうか」
「それと日本も戻ってくるらしい」


 ついでのように付け加えられた言葉に、スイスは飲もうと持ち上げていたカップをテーブルに戻した。

 内心の動揺を隠すように書類を処理し続けていると思っていたイギリスを見れば、手を止めてまっすぐこっちを見ていた目とぶつかった。

 一瞬の沈黙。
 覚悟を決めたように目を閉じたスイスは、深く息を吐いてソファーに身を預けた。


「・・・荒れるであろうか?」
「荒れるだろうなぁ・・・」






next→許しを請うは誰